建設業でAI活用と聞くと、施工管理の自動化やICT建機、図面作成の効率化を思い浮かべる人は多いだろう。
もちろん、現場にAIを組み込む取り組みは進んでいる。一方で、少人数の建設・造園会社にとって、より切実なのは現場以外の仕事かもしれない。見積もり、案件管理、顧客対応、社員教育、資金繰り、営業、経営判断――。多くの仕事が社長一人に集中し、「現場に出たいのに出られない」という状況に陥りやすい。
新潟県で造園・エクステリア事業を手がける株式会社 帝樹園 庭正では、ChatGPT、Claude、Geminiを使い分けながら、AIを単なる検索ツールではなく「社外取締役」のように活用している。
AI導入によって目指したのは、人を減らすことでも、社長の仕事をすべて自動化することでもない。社員と話す時間、現場に向き合う時間を取り戻し、社長の頭の中にあった会社の仕組みを、組織で共有できる形に変えることだった。

プロフィール
長橋 正宇
株式会社帝樹園 庭正 代表取締役。「人生の景色を変える」を経営理念に、タカショー庭空間施工例コンテストで2020年・2021と連続金賞を獲得、2023年には同コンテストにて2部門で優秀賞を受賞。多くの人に庭の魅力を伝えるべく日々活動している。
目次
「会社のOSが全部、自分の頭の中にあった」
建設業の経営者は、現場仕事だけをしていればよいわけではない。材料を拾い出して見積もりをつくり、図面を手配し、顧客と打ち合わせ、社員を育て、資金繰りを考え、次の仕事をつくる。特に小規模企業では、経営者が多くの役割を兼ねることになる。
たとえば、どの案件を受注対象とするのか。着手金はいつ受け取るのか。利益が出る案件かどうかを何で判断するのか。問い合わせから施工、引き渡しまで、どの順番で何を進めるのか。こうした、いわば「会社のOS」にあたる知見は、経験を積んだ社長の中では当たり前になっている一方、社員には見えにくい。
「一番限界に感じていたのは、会社のOS自体が全部僕の頭の中にある状態だったことです。自分では分かっていても、人に伝えられない。仕事を振れる状態ではなかった」
長橋氏はそう振り返る。
そこで長橋氏は、AIとの対話を通じて、自身の業務や判断基準を少しずつ言語化していった。
ChatGPTは壁打ち、Claudeは資料化、Geminiは調査役
長橋氏が活用しているのはChatGPT、Claude、Geminiの3つだ。それぞれ有料プランで契約し、「役員」のように捉え、役割を分けているという。
ChatGPTは、主に壁打ち相手だ。経営上の悩み、業務の進め方、新規事業のアイデアなどを投げかけ、自分の考えを深めていく。
Claudeは、対話から生まれた情報を整理し、資料やマニュアルへ落とし込む役割を担う。業務フロー、育成マニュアル、KPI管理シートなど、社員が使える形にまとめる際に活用している。



AIとの対話で作成した帝樹園 庭正のOSの例(業務フロー、育成マニュアル、KPI管理シート)
Geminiは市場調査や日常的なリサーチに使う。たとえば、デザイナーズプランター(デザイン性を重視した大型の植栽用容器)の海外展開を検討した際には、国内外の市場、製造地域、販路、発信者候補などを調べ、次のアクションを考える材料にした。
「感覚としては、ChatGPT、Claude、Geminiという3人の役員がいるような感じです。どちらかといえば、社外取締役に近いかもしれません」
AIは意思決定者ではない。だが、一人で考えていると見落としがちな論点を出し、情報を整理し、検討のスピードを上げてくれる。長橋氏にとってAIは、経営判断の質と速度を高めるための対話相手になっている。

AIとの壁打ちで「社長依存」を見える化した
長橋氏は、自社の理念やビジョン、社員にどう成長してほしいかといった考えを、まず自分で書き出した。そのうえで、ChatGPTと壁打ちを重ね、会話内容をClaudeに整理させた。
こうしてできたのが、会社の仕事を一連の流れとして整理した仕組みだ。
中には、問い合わせから引き渡しまでの業務フロー、営業時の判断基準、図面外注の依頼テンプレート、メンテナンスフロー、育成マニュアル、組織図、KPI管理シート、評価制度に関する資料などが含まれる。
特に重要なのは、単なる作業手順だけでなく、「なぜその判断をするのか」という基準まで明文化していることだ。
たとえば、少額すぎる案件を受ければ、職人を動かすコストを回収できず赤字になる。受注すべき案件の条件をあらかじめ定めておけば、社員も会社の利益構造を理解したうえで判断しやすくなる。
「最終的な決裁は社長がするにしても、自分で判断できることは自分で判断してほしい。そのために、今まで自分の中にあったものを可視化しました」
経営者が不在でも、社員が判断し、仕事を前に進められる状態をつくる。その土台として、AIが役立った。
AIで減ったのは、事務作業だけではない
AI導入の効果は、資料作成の時短だけではない。
長橋氏は、以前はタスクが溜まり続けていたが、AIに整理を依頼することで、優先順位をつけやすくなったという。抱えている案件や、次にやるべきことを言語化・一覧化することで、「何から手をつけるべきか」を判断しやすくなった。
結果として、現場に出る時間や、社員と話す時間も少しずつ確保できるようになった。
「社長が忙しそうで相談できないとなると、せっかく力のある社員が辞めてしまうこともある。自分が一番大事にしたいのは社員です。そのためにAIを活用している、ということだと思います。
AIで社長の仕事をゼロにするのではなく、社長にしかできない仕事へ時間を振り向ける。顧客との対話、現場での品質判断、社員の育成、会社の理念を伝えること。小規模企業にとって、そこに時間を使えることの価値は大きい。
丸投げではうまくいかない。「0→1」は人が担う
一方で、長橋氏はAI活用の失敗も経験している。
「AIを使えば楽に収益化できるのではないか」と考え、コンテンツ制作や自動音声によるYouTube運用などを試したことがある。しかし、再生数は伸びず、成果にはつながらなかった。
「自分の芯がないまま、AIに丸投げしたものは基本的に失敗していると思います。『楽して稼ぎたい』というぼんやりした願望だけでは、再現性のあるものにはならない」
AIは、与えられた情報を整理し、選択肢を出し、制作物のたたき台をつくることには強い。しかし、顧客にどんな価値を届けたいのか、何を実現したいのか、どの方向へ進むのかを決めるのは経営者自身だ。
長橋氏は、AI活用を事業の核をつくる「0→1」と、それを仕組みとして展開する「1→100」で分けて考える。
理念や事業の核をつくる0→1には、自分自身が深く関わる。一方、その考えをマニュアル、資料、フロー、評価制度といった形に広げる1→100では、AIが大きな力を発揮する。

建設業のAI活用は、まず「会話」から始められる
AI導入というと、専門的なプロンプトや高額なシステムが必要だと思われがちだ。しかし長橋氏の出発点は、もっとシンプルだった。
移動中に音声入力で考えを話す。今日あった出来事を記録する。迷っている案件について相談する。AIから返ってきた答えを、別のAIに整理・検証させる。
「プロンプトをつくり込むより、会話ベースで使うことがほとんどです。普通に『今日こういうことがあったんだけど、どう思う?』と話しかける感覚ですね」
まずは、社長の頭の中にある仕事をAIに話してみる。次に、繰り返し発生する業務を一つ選び、手順書にしてみる。問い合わせ対応、見積もり、現地調査、図面外注、着手金の請求、社員教育など、対象は何でもよい。

AIは社長の代わりに経営する存在ではない。だが、考えを整理し、仕組みに変え、社員と共有するための有力な補佐役にはなれる。
建設業におけるAI活用の本質は、現場から人をなくすことではない。社長が一人で抱え込む状態を減らし、人と向き合う時間を取り戻すことにある。

助太刀タイムズ編集部
助太刀タイムズ編集部
助太刀タイムズ編集部です。 最新のイベントやノウハウだけでなく建設業にかかわる人にとって価値のあるコンテンツをお届けしていきます。






.png?fm=webp&w=1024)


.png?fm=webp&w=1024)
.png?fm=webp&w=1024)
.png?fm=webp&w=1024)

%20(1).png?fm=webp&w=1024)







.png?fm=webp&w=1024)


.png?fm=webp&w=1024)
.png?fm=webp&w=1024)




.png?fm=webp&w=1024)


