特に建設業界の喫煙率は他の業界に比べて高いと言われており、「禁煙しようと思ったけれど、周りが吸っているから自分もなかなかやめられない」という方もいるかもしれません。
そこで今回は、できるだけ少ない負担で禁煙するにはどうすればいいのか、看護師の視点から解説します。
目次
日本では喫煙者数が減少傾向に
喫煙は、がんや心筋梗塞などの病気になるリスクを高めます。
そして、喫煙している本人だけではなく、受動喫煙によって周囲の方にも悪影響があります。
たばこによる健康被害は、皆さんすでにご存知の通りです。
日本呼吸器学会によると、全世界で年間500万人、日本国内でも11万人以上が喫煙関連の病気で死亡しています。*1
このような状況の中、健康増進法が改正され、2020年4月から施行されることになりました。
この改正では、望まない受動喫煙を防止するため、喫煙場所の設置に関する条件や管理権原者等の義務について定められています。
このような社会的な流れなどもあり、喫煙者は徐々に減少しています。
国立がん研究センターが運営するサイトに掲載されている情報によると、2019年の成人喫煙率は16.7%で、男性27.1%、女性7.6%でした。
男性では、1995年以降20歳~60歳代で減少傾向にあります。
女性では、2004年以降ゆるやかに減少しています。
20歳~40歳代では近年減少傾向ですが、50歳代では増加傾向です。*2
建築業界の喫煙率と禁煙の必要性
建築業は、他の職種よりも喫煙率が高いと言われています。
実際にデータを見てみましょう。
以下の表は、国民生活基礎調査における喫煙に関するデータをもとに、職業別喫煙率を3年ごとにまとめたものです。データは男女別で掲載されています。
建設業単体ではなく、運搬や清掃などと一緒にまとめられていますが、参考に見ていきたいと思います。
男性は、「全人口」と「建設・採掘従事者/ 運搬・清掃・包装等従事者」どちらも年々喫煙率は減少しています。
ただし、「全人口」に比べて「建設・採掘従事者/ 運搬・清掃・包装等従事者」の方が喫煙率が高くなっています。
女性の方を見ると、「全人口」の喫煙率は年々減少していますが、「建設・採掘従事者/ 運搬・清掃・包装等従事者」の喫煙率は増減を繰り返しています。「全人口」に比べて「建設・採掘従事者/ 運搬・清掃・包装等従事者」の喫煙率が高いのは、男性同様です。*3
これらのデータから、建築業は他の職種よりも喫煙率が高いことが推測できます。
男性の職業別喫煙率の推移
2001年 | 2004年 | 2007年 | 2010年 | 2013年 | 2016年 | |
全人口 | 56.0% | 52.4% | 48.3% | 43.7% | 40.9% | 38.4% |
建設・採掘従事者/ 運搬・清掃・包装等従事者 | 61.8% | 59.8% | 54.8% | 53.2% | 50.9% | 47.9% |
女性の職業別喫煙率の推移
2001年 | 2004年 | 2007年 | 2010年 | 2013年 | 2016年 | |
全人口 | 17.0% | 16.9% | 16.6% | 14.9% | 14.3% | 13.0% |
建設・採掘従事者/ 運搬・清掃・包装等従事者 | 18.4% | 19.7% | 22.2% | 19.4% | 20.3% | 18.3% |
引用)一般社団法人 日本公衆衛生学会「職業別喫煙率とその推移国民生活基礎調査による分析(20012016年)」
建築業で喫煙をすると、どのような影響があるのでしょうか。
喫煙は、火事の原因になる可能性があります。
総務省消防庁によると、令和元年中の出火件数37,683件のうち、失火(過失によって火事をおこすこと)による火災は全体の73.5%で、その多くは火気の取扱いの不注意や不始末から発生しています。
出火原因別にみると、たばこが3,581件と最も多くなっています。*4
また、建設現場によって喫煙ルールが異なり、ルールを守っていても煙や臭いによって近隣住民とのトラブルになる可能性もあります。
禁煙できないのは意志が弱いせいではない!
「禁煙したいと思っているけれど、そんなに簡単にできたら苦労はしない」と思っている方も多いでしょう。
上の見出しでもお伝えした通り、建設業は他の業界よりも喫煙率が高いため、職場の同僚や上司が喫煙者ということも少なくないと思います。
いざ禁煙しようとしても、たばこを吸っている人を見ると自分も吸いたくなってしまいますよね。
こんなとき「自分はなんて意志が弱いんだろう」と落ち込むかもしれませんが、そうではありません。
禁煙できない理由に、意志は全く関係ないからです。
禁煙できない原因は、たばこに含まれるニコチンに依存性があるためです。
ニコチンが切れると、イライラしたり集中力が続かなくなったりします。
他には、習慣的な依存もあります。
「朝起きたら、まずは一服」「飲み会では、必ずたばこを吸う」など、日常生活と喫煙がセットになってしまっている状態です。
そうすると、自然とたばこに手が伸びてしまうので、なかなかやめられなくなってしまいます。
そのため、意志の強さだけで禁煙をするのはとても難しいのです。
このことを念頭において、禁煙を成功させるための対策を考えましょう。
禁煙を無理なく成功させるためのポイント
できるだけ負担を少なくしながら禁煙するためのポイントは、以下の5つです。
「とりあえずやってみよう」というスタンスで始める
「せっかくやるからには、一度で禁煙を成功させるぞ!」とは思わないでください。
習慣を変えるのは、とても大変なことです。
さらに、ニコチンによる依存もあるので、一度で禁煙できなくても無理はありません。
「そろそろ禁煙しようかな?」と思ったら、まずはやってみるという軽い気持ちで始めてみましょう。
もし禁煙が続かなくても落ち込まない
上の見出しでも書いたように、完全に禁煙するまでは難しいので、禁煙が続かなくても落ち込まないでください。
禁煙に失敗しても、また始めればいいのです。
たばこが吸いたくなったときの状況や気持ちを思い出し、なぜ吸いたくなったのか原因を見極め、次に活かしましょう。
離脱症状への対処法を検討する
禁煙でつらいのは、イライラや集中できなくなるといったニコチンの離脱症状です。
離脱症状への対処法は、ニコチンガムやニコチンパッチなどの禁煙補助剤を利用する方法があります。
薬局で買えるものもあるので、手軽に禁煙したい方におすすめです。
それでもうまくいかない場合は、禁煙外来を利用しましょう。
・ニコチン依存症であることなどの条件を満たしている
・一定の基準を満たした医療機関での禁煙治療
この場合、健康保険が適用されます。
治療方法が進化していることもあり、禁煙治療を終了した人の約7割が禁煙に成功しているとされています。(※5回の禁煙治療終了者のうち、治療終了時に4週間以上の禁煙に成功した者の割合)*5
禁煙後のいい変化やメリットに目を向ける
いくら禁煙が健康によいと分かっていても、自分にとってメリットがなければ禁煙しようとは思えません。
どうしてもつらいイメージがある禁煙ですが、いいこともあります。
・たばこ代がかからなくなる。
・ご飯が美味しく感じるようになり、食事がより楽しめる。
・たばこを吸うために、わざわざ場所を探す手間がなくなる。
ざっと挙げただけでも、このようなメリットがあります。
たばこに変わる習慣をつくる
離脱症状は、禁煙開始後2~3日をピークに現れ、個人差はあるものの緩やかに10~14日間続くと言われています。*5
離脱症状を和らげるため、新しい習慣をつくるようにしましょう。
東京都福祉保健局のサイトには、以下のような対応法の例が掲載されています。
ご自分の状況に合わせて、取り入れやすいものから試してみてください。
まとめ
禁煙をした方がいいとは分かっていても、ニコチンへの依存や習慣などから意志の強さだけでは成功しません。
まずは気軽に始めてみて、禁煙補助剤を利用しながらコントロールしていきましょう。
一度失敗したとしても、また始めればいいのです。
ぜひ無理のない範囲で、チャレンジしてみてください。
【参考サイト】
*1
参考)一般社団法人 日本呼吸器学会 「禁煙のすすめ」
https://www.jrs.or.jp/citizen/nosmoking/think/
*2
参考)国立がん研究センター がん情報サービス 「喫煙率」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/smoking/index.html
*3
参考)一般社団法人 日本公衆衛生学会「職業別喫煙率とその推移国民生活基礎調査による分析(20012016年)」
https://www.jsph.jp/docs/magazine/2021/06/68-6_p433.pdf p437
*4
参考)総務省消防庁 「令和2年版 消防白書」
https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r2/chapter1/section1/para1/56559.html
*5
参考)東京都福祉保健局 「禁煙したい方へ」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kensui/kitsuen/kinen_sapo/
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文/浅野すずか
フリーライター。看護師として病院や介護の現場で勤務後、子育てをきっかけにライターに転身。看護師の経験を活かし、主に医療や介護の分野において根拠に基づいた記事を執筆。
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