TOP インタビュー 赤字経営からの復活劇 倒産寸前だった会社を救ったのは”利益”の意識

赤字経営からの復活劇 倒産寸前だった会社を救ったのは”利益”の意識

2023年3月8日更新

記事をシェアする

「仕事は多くて忙しいのになぜか預金がどんどん減っていく」
「単価の高い仕事をしていても資材費の支払いに追われる」
一人親方や経営者で、こんな悩みを抱えているかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
有限会社 石和設備工業 代表取締役の小澤 大悟さんは、倒産寸前の会社を承継し、5年で売上を2倍に、10年で1億円を超えるほどに事業を成長させることができました。
経営の経験や知識のない小澤さんがなぜ赤字経営を立て直すことができたのか。
その秘訣はシンプル、「売上より利益を目指す」ことでした。

今回は、V字回復の経営手法について、小澤さんにお聞きしました。


【プロフィール】
▼小澤 大悟さん石和設備工業代表取締役。かっこいい水道屋日本一を目指す社長であり、水道工事のプロフェッショナル。倒産寸前の会社を承継し、5年で売上2倍、10年で1億越えへと成長させる。業界の常識を変え、トイレで世の中にワクワクを与えるべく活動している。

継いだのは倒産寸前の水道屋

赤木:よろしくお願いします。まず、石和設備工業さんの主な事業を教えて頂けますか。

小澤:大きく分けて4つあります。それぞれ売上比率でいうと、蛇口の水漏れやトイレの詰まりの改善が20%、トイレ事業も含みますが、水回りを含めたリフォーム事業が20%、ゼネコン案件(マンションの施工にあたっての水道や下水の申請業務や水道管の引き込み業務)が20%、公共工事が残りの40%になります。

赤木:公共工事が比較的多いんですね。

小澤:粗利益率でいうとそうでもないですが、売上ベースでいうとそうですね。

赤木:町の水道屋さんって1事業に特化しているイメージなんですけど、石和設備さんでは幅広くなさっているんですね。

小澤:その代わり、対応するエリアを限定しています。エリアは95%が所沢市内です。

赤木:地場を中心に営業されていらっしゃるんですね。

小澤:地域に根差すことこそ、小さい会社や一人親方がやるべきことだと思ってます。

仕事がない中で東京の案件があると、つい請けてしまいがちですが、そこを我慢して、地域で営業していけるように基盤を作っていく必要があります。

赤木:東京の仕事を請けないっていうのは移動時間が長いからですか?

小澤:それもありますが、東京では元請けが抱える顧客のエリアが広くなってしまいますので、次に紹介される仕事がまた遠方になってしまうことも多いです。

その場合は、かかる経費分はちゃんと請求することで、そういった案件で忙殺されないようにしています。

赤木:なるほど。もともと水道屋さんになろうと思っていたんですか?

小澤:いえ、特に水道屋になろうとは思ってなくて、父が水道屋だったから、その手伝い感覚でやっていました。その頃の私は、特に夢や目標も無かったです。そんなとき、父が経営していた会社の経営状況が悪く、負債も多かったため、廃業するという話が出てきました。そこで、「畳むなら負債ごと継がせて欲しい」と言って継がせてもらいました。

赤木:ご自分から店を継ぐって仰ったんですか!?

小澤:はい。学歴もなく、何かを成し遂げたこともない。自分に自信がないなかで、ここで別の会社に就職しても、いい未来はないと思って、長く水道の仕事をやっていたので、自分にはこれしかないと思って決意しました。

夢は特になく、自分に自信ももてなかった中、家業を継ぐことを決意

赤木:そういうかたって、学生時代に部活動で成功体験を積んでることが多いんですが、小澤さんもなにか力を入れていたことってあったんですか?

小澤:あえていうなら、スノーボードが好きで、強豪チームに入って活動をしていました。

赤木:そこで大会で活躍されたりしたんですか?

小澤:いえ、周りはレベルが高すぎて敵わなかったですし、会話にもついていけなくて。

それでもカメラの撮影や映像編集を担当するようになって、そこでみんなの役に立ちたいとか、輪の中に入って仲間になりたいっていう思いでやっていたら、ビデオコンテストに2年連続で入賞するようになりました。

赤木:なるほど、映像の分野で活躍されたんですね。

小澤:これが少ない成功体験の1つですで、これが自信になっています。時間をかけて本気になれば自分も結果を出せるんだなって分かりました。

赤木:そこで勇気をふりしぼって、継ぐという決意をされたんですね。

小澤:そうですね。あの時の経験がなかったら、継いでなかったかもしれません。

とにかく現金!無理してでも仕事を請け続ける

赤木:会社を継いで、まず何からはじめましたか?

小澤:負債も大きかったので、とにかく現金を得る為になんでも仕事を請けていました。

赤木:さきほど仰ってた、遠方の仕事でも請けたりしていたんですね。

小澤:他にも、過去にやった事がない仕事も請けたりしていましたね。できるかどうかは分からないけど、とにかく現金が必要だったので。

赤木:できないことはご自身でできるようになっていったんですか?

小澤:それもありますが、できないことはできる人にお願いしたりもしていましたね。

赤木:なるほど。

小澤:ここでも学びがあって、できる人に仕事をお願いする中で、既存の現場仕事の効率化や、施工の技術を学ぶことができました。

赤木:知識が全く無いところからのスタートですもんね。

小澤:並行して、私が後を継いだことで、改めて借り入れできる先がないかをあたっていくようにしました。

赤木:緊急事態からのスタートだったっていうのがよく分かります。

小澤:「格安のファミレスに行くのが月に1度の贅沢」っていう時期が2年くらい続いてましたね。

経営のケの字も分からない中、ある税理士との出会いで光明が見える

小澤:必死に仕事をこなしたおかげで初年度でギリギリ黒字化することができ、借り入れも目処がついてきたころ、やっと商工会議所の会報誌を読むくらいの余裕がでてきました。

赤木:それくらいギリギリの日々が続いてたんですね。

小澤:そこでいつも面白いコラムを書く、「SMC税理士法人」代表の関根威先生というかたがいらっしゃって、都度スクラップしてファイリングしていました。

ある時、関根先生が無料でセミナーを開催するという案内があって、スクラップを持ってセミナーに参加させて頂いて、セミナーが終わった後に先生のもとに行って、記事のスクラップと決算書を見せて「先生のファンです!顧問になってください!」とお願いしました。

赤木:熱量が凄い。

小澤:それで教えを請い、先生の本も読みながら経営について学んでいきました。

赤木:先生の教えで最初にやったことってどんなことでした?

小澤:事業計画書をつくることでしたね。

赤木:建設業の小規模事業者さんで事業計画書を作っている会社さんってなかなかないですよね。

小澤:そうですね。「事業計画書なんて書いたことないです」って言ったら、ご自身の会社の事業計画書をくださって、それを真似する形で自社の事業計画書を作りました。

社訓とか経営理念とかもそこに入れて、社員さんの前で発表しました。そこで、「売上高1億円を目指します」っていったところから色々変わりましたね。

赤木:事業計画書を書いて発表することで変わったことってどんなことがありましたか?

小澤:やっぱり書いて口にすることで自分に対する呪文のように意識が変わってきますね。漠然と売上をあげていくのではなく、「あの仕事を100件こなさないと1億に届かないけど、この仕事だったら50件で達成できるよね。じゃあこの50件を受注する方法を考えよう」みたいに、具体的に何をしたらいいかを考えられるようになりました。

当時の事業計画書

注目すべきは売上ではなく利益

赤木:そこから事業が好転していったんだと思いますが、具体的に変えたことってありましたか?

小澤:粗利益を意識したことが一番大きいですね。

赤木:粗利益ですか?

小澤:粗利益は売上から工事原価を引いたものです。工事原価は材料費や労務費、外注費や経費ですね。同じ100万円の売上だったとしても、粗利益が50万円と10万円では手元に残るお金は全く違ってきますよね。

赤木:確かにそうですね。

小澤:そこで、「100万円の仕事に喜ぶのではなく100万円の粗利益に喜ぶ」ように経営の方針を定めていきました。

また、お客様に売上の見込みで「ランク付け」をさせて頂いて、例えば100万円の粗利益が継続的に見込めるAランクのお客様に対して力を注ぐといった形で、自社の経営資源を集中すべきところに集中させるようにしました。

赤木:なるほど、ランク付けっていうとドライなイメージもありますが、経営の観点でいうととても重要ですよね。

小澤:利益を考えない経営は無責任で、世のため人のため、社員さんや、何より自分のためにしっかり良い仕事をして対価を得られるようにすることが1番ですからね。無理にお客様の数を増やすのではなく、サービスの品質を高めて、それを評価して下さるお客様に集中する方針にしました。

赤木:粗利益の確保と、ランク付けによる売上の期待値向上の両輪で走ることにしたんですね。

小澤:そうですね。本当に意識すべきことはその2点だけなので、考え方としてはとてもシンプルです。

技術だけでは不十分、経営やお金に対する意識を

赤木:こういうお金の意識って、なかなか学ぶ機会が無いですよね。

小澤:技術は親方や先輩から学ぶことができますが、こういった知識はなかなか学びにくいですね。それで独立して「日給3万円の仕事をもらった」といっても、そこにどれだけの経費がかかるのかを意識しないと、どれだけ頑張っても経営が改善しません。

赤木:目の前にある仕事のうち、どれを選択して請けるか選ぶだけでも変わってきそうですね。ちなみに、全く仕事がない中で独立する場合、ゼロから仕事を探す形になると思いますが、そういった時は何から手をつけたらいいと思いますか?

小澤:私の経験則になりますが、地元の水道組合への加盟は一つの方法ですね。本人次第ですが、仕事をもらえたり、軽微な公共案件にも関われたりしますので。そこで信用を得て大きな仕事に発展する可能性もありますし、組合が役所に来る水道トラブルの窓口を担ってることもありますので、そこから民間の仕事に繋がる可能性もあります。

赤木:やはり地元なんですね。

小澤:そうですね。大きな会社と一人親方や小規模事業者では戦い方が大きく変わりますので、大きな会社のようにエリアを広げると、粗利益の面でも売上の期待値の面でも不利になってくると思います。

後編に続く

職人の労働後メシ〜究極の空腹スパイス〜にて小澤さんの動画を公開中!こちらもぜひご覧ください。