私は震災の1年後に、ハウスメーカーで福島県いわき市に配属になりました。今回は、いわき市の復興の様子と、そこで奮闘していた職人さんの姿についてお話したいと思います。
目次
新卒1年目の春、配属先は福島県いわき市だった
こんにちは、週刊助太刀編集部の梅澤と申します。助太刀には2022年9月に入社し、カスタマーサクセスとしてお客様のサポートをさせて頂いています。
そんな私は新卒でハウスメーカーに就職しましたが、配属先はなんと福島県いわき市。東日本大震災が起きた1年後のことですので、当時は私も配属を聞いてびっくりしました。
「会社が配属しているから、きっと大丈夫だろう…」と思っていましたが、不安は大きかったです。
鳴り響く放射線量計のアラーム
私の配属先は福島支社のいわき営業所で、集合住宅の営業や造成地確保の仕事をしていました。いわき市の市街地は震災の影響も比較的少なく、生活インフラも復旧していましたが、車で20分くらい走ると皆さんがテレビで見る被災地の様子が広がっていました。
RCの建物で地盤沈下により、致命的なダメージを受けているところもありましたし、会社からちょっと離れると崩れた倉庫などもありました。少し田舎のほうになると、面積の広い木造家屋が多くありましたが、そういった建物は激しい揺れや屋根の重さに耐えられず潰れていました。
「違和感」、被災現場を見た時の印象です。空は何事もなかったかのように青く、小さな波がやさしく砂浜をなぞる。でも、一目内陸側を見ると、そこには崩れ落ちている護岸、1階が柱だけの、かろうじて原型がある家、住宅があったであろう基礎のコンクリート。
目線を少しずらすだけで、まるで別世界のような感覚に襲われました。
ある時、原発作業員の方が住むホテルを造成する為に、立入禁止区域の外縁で用地を探していました。その時、放射線量計のアラームが鳴りだします。
避難区域外では除染作業が完了しているのですが、それはあくまで舗装された道路の話、草むらに入ると放射性物質が残っていることも当時はありました。造成地を探す上で草むらに入る事も多く、そんな中で放射線量計のアラームが鳴ったんだと思います。
さすがにこれは恐かったですが、原発作業員の方はボロボロのアパートに7、8人が雑魚寝で暮らしているような状況。原発からの距離も遠い場所で、毎日の移動も大変な状況でしたので、なんとしても自分がやらないとと、気持ちを奮い立たせていました。(とはいえ恐いものは恐かったですが、、)
2万人の避難民がプレハブ住宅に
当時のいわき市には避難民の方が移住されていて、その数は2万人におよびました。当然、2万人を受け入れられる住宅は無く、ほとんどの方はプレハブの仮設住宅に入居しました。仮設住宅についてはテレビで見たことがある方も多いでしょうが、だいたいは4〜6人が2DKの家に住むような形で、冬は寒く夏は暑いという環境。加えて、当時は余震が頻繁に起きており、毎月のように震度5の余震もありました。
住人の方もそれを日常として受け入れてはいましたが、プレハブの仮設住宅住まいは不安が強かったと思います。アパートに住む方もいましたが、そこも地震でダメージを受けており、余震が起きたら壊れるんじゃないかと思いながら住んでいるというケースもありました。
「県外に移住したらいいんじゃないの?」と思うかも知れませんが、避難民の方は多くがいわき市に仕事を持っており、県外に出ることも難しい状況でした。
痛感する職人不足
そんな状況で、避難民の方が仮設住宅から安心できる住居に住み替えられるように、現場の職人さんは日々頑張ってくださいました。
ですが、相手は2万世帯の住居です。簡単に住居が建つわけはなく、慢性的な人手不足が続きます。
ハウスメーカーは建物の仕様が決まっているため、施工にはその仕様を分かっている人が必要になります。そのため、全国から自社の施工ができる職人さんを探す必要がありました。そういった職人さんも現地での住居に困っている状態で、会社でホテルを取ってそこに住んでもらったりしていました。
そんな中でも日々現場で汗を流してくださっていた職人さんには感謝しかありません。毎日のように余震が続いていますので、施工途中でも大きな揺れが起きることが日常でした。そんな時も、職人さんは自身の安全を確保しながら、日々の施工に力を注いでくださいました。おかげで短い納期にも間に合い、事故もなく施主さんに物件を引き渡すことができました。
「仕事はいっぱいあるよ」と笑う職人
私は営業でしたのでいつも現場にいたわけではなかったですが、仕事終わりに職人さんとゲームをしたり、飲み会に参加したりしていました。お酒好きが多かったので、飲み会は頻繁に開かれていました。
当然、参加される職人さんも地元の被災者です。話は自然と震災の話になります。「うちの周りは凄かった」や「近所から温泉が湧き出た(山側で起きるのですが、温泉が湧くと排水路の施工や地質が変わりコンクリートが固まりずらいなど、施工がちょっと手間になります)」といった話が、いわき市の居酒屋で日々交わされていました。
震災による心の傷もあったはずですが、彼らはとても明るく、「仕事がありすぎて困るんだけど(笑)」といった感じで、いい意味で開き直っていました。
みんなが目の前のことを必死にやっている。私は家を売って、職人さんは家を作って、日常を取り戻すためにそれぞれの役割をまっとうしていました。余震が起きるたびに「ここは被災地なんだ」と認識させられますが、地元を復興しようという一体感のようなものが、そこにあったと思います。
少しずつ進む復興
いわき市で働いたのは4年間でしたが、そのあいだにも、復興が進んでいく様子は目に見えて分かりました。地盤がグズグズになっていた場所に建物が建ったり、道路がきれいになっていったり。
もちろん、復旧が進みにくい場所もありましたが、いわき駅の周辺や小名浜港などは特に復旧が早く、ゆっくりとですが復興が進んでいるという実感がありました。
言うまでもなく、この復興の影には職人さんの頑張りがあります。ただでさえ天候によってスケジュールが変わってしまう上、毎日のように余震が起きている状況。地震が起きたらすぐに足場にしがみついて安全を確保し、深夜に大きな地震が起きると夜中や早朝に現場を確認しに行き、短い納期で事故なく施工を終えて次の仕事にかかっていく。
職人さんは、常に復興の最前線にいました。
私がいたハウスメーカーでも常に100人くらいの職人さんが稼働しており、「君の物件だったら頑張るよ」と言って頂いたり、多少の無理も聞いて頂いたりしていました。職人さんへの感謝とともに、私も復興を支える一員であると実感できて、誇らしく思えました。
異動と転職
いわき市で4年が経ったころ、神奈川県川崎市の支店に異動の辞令が出ました。
営業としていわき市の復興に携わったと同時に、新卒1年目の私を育ててくれた場所でもあります。私と同じような経験をした方はなかなかいないと思いますが、こんな経験ができたのは、建設業だからこそでしょう。
「感慨深い」という言葉では足りない、色んな感情がまぜこぜになった気持ちでいっぱいでした。
いわき市を後にした後、私は川崎市の支店で1年間を過ごし、大型施設の建設を経験してみたいという思いから大手ゼネコンに転職します。そこではハウスメーカーとは違う、ゼネコンの規模感を体感する事ができました。
ですが、その時、初めて現場の事故を経験します。事故の直接的な原因はさまざまですが、大きな理由としては人手不足があります。これはゼネコンでも大きな問題になっており、現場をまわす上で必要な人数が足りないなか、無理をして事故に繋がってしまうという事が起きていました。現場にいた私にとって、この事故はとてもショックが大きく、こういった事故を無くす為にどうしたらいいのかと考えるようになりました。
おわりに
その後、建設業における人手不足を解消し、事故が起きない現場を目指して助太刀に入社しました。助太刀によって元請けが複数の協力会社とつながり、繁忙に合わせて必要な人員を確保することができれば、過去に経験したような事故を防ぐことができるかもしれない。それがいま、私が助太刀で働いている理由です。
また、いわき市の復興を通じて、職人さんがいかに社会にとってかけがえのない存在なのかを痛感しました。この記事ではいわき市の職人さんについてお話しましたが、同様に、それぞれの現場で仕事をまっとうし、社会活動を止めないように頑張る職人さんがいらっしゃったことも存じ上げています。
この記事を通して、いわき市で復興の為に尽力していた職人さん達がいたということをご存知頂ければ幸いですし、あの時期に、各々にできる最善の形で社会を支え続けていた全ての職人さんへの、感謝と尊敬の気持をお伝えしたいと思います。
職人さんが評価され、安心して働いていけるように頑張っていきますので、応援よろしくお願い致します。それでは皆さん、ご安全に!
[編集・構成 赤木 勇太]
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