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一人親方が現場で怪我をしてしまったら?怪我や骨折などの応急処置について医師が解説

2023年6月5日更新

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建設現場で一人親方の皆さんが作業している際に、骨折や捻挫などの怪我をしてしまうことがあるかと思います。
そうした場合に、ある程度の応急処置ができると、怪我から早く回復がすることが期待できます。
今回は、建設現場で怪我人が出たときに、医療機関を受診するまでにかかるまでの間、怪我や骨折をした部位の障害を最小限にとどめるための応急処置について解説します。
また、早めに病院を受診した方が良い場合についても紹介しますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

一人親方の方が知っておきたい建設現場での怪我について

最初に、建設現場で起こりやすい事故や怪我についての基本的なデータの確認をしましょう。

(1)建設業で起こりやすい事故は?

建設現場では、高所での作業や重機の使用機会が多いため、安全管理を万全にして作業を行っていることでしょう。
しかしながら、そうした中でも、やはり事故は起こってしまうことがあります。
建設業における労働災害発生状況では、死亡者数・死傷者数ともに事故の型別では墜落・転落が最も多いという状況が続いています。*1
墜落・転落以外の原因として、はさまれ・巻き込まれや転倒、飛来・落下、切れ・こすれといったものもあります。*1
こちらの円グラフは、建設業を含むすべての業種での労働災害についてのデータになります。
死亡にまで至らない人も含めた休業4日以上の死傷者数の中では、転倒も多いということがわかるかと思います。*2

引用)*2 令和3年 労働災害発生状況 p2
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000943971.pdf
令和3年の労働災害発生状況を公表|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25944.html

(2)労働中に起こりやすい怪我にはどんなものがあるの?

では次に、建設業で労働災害として認められた怪我の中にはどのようなものがあるのかを示します。
例として、 鳥取労働局管内の各労働基準監督署に提出された「労働者死傷報告書」を基に、平成25年1月1日から平成30年12月31日までに発生した労働災害について取りまとめたものをご提示します。*3

引用)*3 図16 災害分析(建設業のうち建築工事業)事故の型別 p2
https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/content/contents/16_saigai_kenchikukouji.pdf
グラフで見る労働災害の傾向
https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/newpage_00145.html

このグラフを見ると、建設業では、骨折や切り傷、捻挫(ねんざ)、打撲(だぼく)といったものが多いことがわかります。
こうした怪我の中には、もちろん自分だけでの対応では危険であり、救急車を呼んだり応援を要請したりすることが必要なものもあります。
一方で、現場で同業の方が捻挫などの比較的軽い怪我をしたの場合などは、まずは一人親方の皆さん自身同士で対応することも必要な場面が多いかと思われますでしょう。
そこで、これから怪我の応急処置についての基本的な知識をご紹介していきます。

怪我の応急処置はどのようにするとよい?

怪我をしてしまっても、正しい初期治療や対応をすれば早く治ることが期待できます。
一方、不適切な処置を行うと、怪我からの回復が遅れてしまいます。
一人親方の皆さんの場合は、ご自身の怪我が仕事のパフォーマンス、ひいては収入にも直結することもあるのではないでしょうか。
怪我をしてしまった際の基本的な処置方法について知っておくことも大切だと考えられます。

(1)あらかじめ準備しておきたいこと

怪我をした時に備えて、一人親方の皆さんにおすすめしたい準備があります。
自分が建設現場で怪我をして、意識がない状態などになってしまった場合を想定してみましょう。
その際には、以下の情報が整理されていると、怪我の治療をする上で役立ちます。

・今までかかった病気や現在治療中の病気
・薬やアレルギーの有無
・いつも飲んでいる薬
・かかりつけ医がいる場合はその病院名

こうした情報をメモ帳や手帳に記入し、身につけておくと良いでしょう。

(2)捻挫や肉離れなどの怪我をしたときは?

怪我といっても、捻挫や肉離れ、すり傷や骨折などさまざまなものがあります。
作業中に転倒し、足首をひねってしまったときには、捻挫が起こることがあります。
外傷を受けたときの応急処置については、患部の出血や腫脹、疼痛を防ぐことを目的に患肢や患部を安静(Rest)にし、氷で冷却(Icing)し、弾性包帯やテーピングで圧迫(Compression)し、患肢を挙上すること(Elevation)が基本となります。
この基本は、それぞれの頭文字をとってRICE(ライスと読みます)といいます。
スポーツを始め、外傷の緊急処置の基本です。
RICE処置は、捻挫や肉離れなどの四肢の「怪我」に行います。*4

一人親方の皆さんの場合は、もちろんスポーツをしているわけではありません。
そして、この略語を全てを完璧に覚えておく必要もないでしょう。
しかし、外傷つまり怪我をしたときの処置の考え方としてわかりやすいので、これからご紹介しますね。

(2)-1 安静(Rest)

怪我をしてしまった部位の腫れや、血管・神経の損傷を防ぐことが目的です。
添え木やテーピングで、怪我をした部位を固定し、動かないようにします。*4
腕を怪我した場合は、三角巾なども使用するとよいでしょう
添え木の代わりに、段ボールを用いることもできます。

引用)*4「スポーツ外傷の応急処置」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/athletic_injury.html

(2)-2 冷却(Icing)

怪我の腫れがひどくなったり、怪我をした部位の細胞が死んでしまうことを防ぐために、冷やすことも大切です。
ビニール袋やアイスバッグに氷を入れて、怪我をした場所を冷却します。
15〜20分冷却したら(患部の感覚が無くなったら)はずし、また痛みが出てきたら冷やします。
これを繰り返します(1〜3日)。*4
氷の代わりに、保冷剤とタオルを用いることもできます。

(2)-3 圧迫(Compression)

怪我をした部位の内出血や、腫れがひどくなることを防ぐ目的があります。
スポンジなどを腫脹が予想される部位にあて、テーピングや弾性包帯で軽く圧迫気味に固定するのが理想的です。*4
しかし、一人親方の皆さんがそうした道具を持っていない場合は、バンダナ等の大きめのハンカチを怪我をした部位にしっかりと巻きつけ、ガムテープなどでとめることも有効となります。

(2)-4 患肢を挙上すること(Elevation)

腫れを防ぐことと、腫れが和らぐようにすることが目的です。
特に下半身などでは、怪我をした部位を心臓より高く挙げるようにします。*4

引用)*4「スポーツ外傷の応急処置」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/athletic_injury.html

(3)すり傷などの怪我をしたときの処置は?

傷口が砂や泥などで汚れている時は、なるべく早く、きれいな水(水道水で問題ありません)で十分に洗い流します。
出血が多い場合は、清潔な布で強く抑えて止血します。
大切なことは、怪我をした場所をきれいにしておくことです。
もし他人の怪我を手当する場合は、直に血液に触れないようにゴム手袋やビニール袋を使いましょう。*5

(4)緊急性のある怪我は?

捻挫や肉離れ、擦り傷などといった怪我に対する処置について述べました。
一方、以下のような怪我については、早急に医療機関を受診したり、救急車の要請をすることも必要な場合があります。

(4)‐1 開放骨折

これは、骨が皮膚から飛び出している骨折です。
もちろん放置することは通常は無いかと思いますが、処置が遅くなると傷口からの感染が起こるリスクがあります。
6時間を目安に、抗生剤の投与や十分に洗うことなどの処置が必要となりますので、緊急の対応が大切です。*6

(4)‐2 麻痺がある場合

怪我をした場所が動かないなどの症状がある場合、つまり麻痺が起こっているときは、神経までダメージが及んでいる可能性があります。
こちらも、早急に医療機関を受診することが必要です。

【まとめ】

今回は、一人親方の皆さんが現場で怪我をしてしまった時の処置方法について解説しました。
緊急性があるかどうか、よくわからない場合は、応急手当をした後に早めに医療機関を受診したほうが安全です。
怪我はもちろん起こらない方がいいですが、怪我をしてしまっても早く復帰できるように気を付けていきましょう。

【筆者】
・名前:nishicherry2480
・プロフィール:行政機関である保健センターで、感染症対策等主査として勤務した経験があり新型コロナウイルス感染症にも対応した。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

【参考文献】
*1 令和3年労働災害発生状況の分析等 p11
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000944361.pdf
令和3年の労働災害発生状況を公表|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25944.html

*2 令和3年労働災害発生状況 p3
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000943971.pdf
令和3年の労働災害発生状況を公表|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25944.html

*3 図16 災害分析(建設業のうち建築工事業)事故の型別 p2
https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/content/contents/16_saigai_kenchikukouji.pdf
グラフで見る労働災害の傾向
https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/newpage_00145.html

*4 「スポーツ外傷の応急処置」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/athletic_injury.html

*5 怪我などに対する応急措置 p1
https://www.kokuminhogo.go.jp/pdf/hogo_m_07.pdf
武力攻撃やテロなどから身を守るために -避難にあたっての留意点などをまとめました- (パンフレット) – 内閣官房 国民保護ポータルサイト
https://www.kokuminhogo.go.jp/gaiyou/shiryou/hogo_manual.html

*6 救急外来における整形外傷 p38-39
https://www.med.kindai.ac.jp/medical_convention/magazine/files/igaku/igaku47_1.2_06.pdf