職人の定着率を上げるためには、会社が提供する福利厚生を充実させることが効果的な方法の一つです。
法定の社会保険への加入に加えて、会社独自の福利厚生制度を導入すれば、職人の離職率を下げられるかもしれません。ただし、従業員に対する福利厚生を導入する際には、法律・税務の観点から注意すべきポイントがあります。
効率的・安定的に福利厚生制度を運用するため、必要な知識を備えておきましょう。
今回は、建設業を営む会社が導入を検討すべき従業員向けの福利厚生制度の例や、導入時の注意点などを解説します。
目次
建設業を営む会社が活用し得る福利厚生の例
福利厚生を充実させれば、仕事や待遇に対する満足度が高まり、雇用する職人の離職防止に繋がります。
たとえば以下のような福利厚生制度は、職人にとっても使い勝手がよく、建設業を営む会社でも導入しやすいでしょう。
住宅手当・家賃補助
従業員が賃貸住宅に住む際に、家賃の一部を補助する制度は、福利厚生としてよく見られます。
良いグレードの家に安く住むことができるため、職人にとってもお得感の大きい制度といえるでしょう。
住宅手当・家賃補助の金額は、ほぼ家賃全額を補助するケースから、2~3万円程度を上限とするケースまでさまざまです。
食事の支給
従業員に対して食事を割安または無償で提供することも、福利厚生としてよく見られる例の一つです。
建設現場では毎日食事を取る時間があるため、まとめて仕出し弁当を発注するなどして提供すれば、職人にも喜ばれるでしょう。
食事代を支給する形も考えられますが、後述するように、支給額に対して課税されることがある点に注意が必要です。
施設利用の優待
リゾートホテルやレジャー施設などと契約して、従業員に安く使ってもらう制度を、福利厚生として導入している会社も多いようです。
家族・友人・恋人などと一緒に利用できるため、旅行やレジャーを楽しみにしている職人にとっては嬉しい制度でしょう。
特別休暇制度
法律で認められている有給休暇・育児休業・介護休業などとは別に、従業員が利用できる特別休暇を設けることも、福利厚生の一案です。
たとえば、現場工事が一段落した段階で長期休暇を付与するなど、さまざまな名目で休暇を与えることが考えられます。
職人としてもリフレッシュになりますし、現場工事に精を出すためのモチベーションアップにも繋がるでしょう。
福利厚生制度を導入する際に必要な法律上の手続き
職人向けの福利厚生制度を導入する場合、就業規則等でその内容を定めたうえで、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
また、導入した福利厚生制度の内容は、従業員に対して確実に周知させてください。
就業規則など社内規程の整備
福利厚生制度の内容は、労働基準法に基づく就業規則の記載事項です(労働基準法89条2号、3号、10号)。
そのため、福利厚生制度を導入する際には、就業規則にその内容を明記しなければなりません。
なお、「就業規則」という名前の社内規程には具体的な内容を定めず、「福利厚生規程」など別の社内規程で定めることも認められます。
就業規則の変更に関する届出
福利厚生制度の導入に関して就業規則を変更した場合、変更後の就業規則を労働基準監督署へ届け出なければなりません(労働基準法89条後段)。
届出先は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。以下の厚生労働省ウェブサイトから、労働基準監督署の所在地をご確認ください。
参考:
全国労働基準監督署の所在案内|厚生労働省
なお、就業規則とは別の社内規程で福利厚生制度を定めた場合には、その就業規則を労働基準監督署へ届け出なければなりません。
ただし、常時使用する労働者が9人以下の場合には、労働基準監督署に対する就業規則等の届出は不要です。
従業員に対する福利厚生制度の明示
福利厚生制度は労働条件の一つであるため、会社は従業員に対してその内容を明示することが義務付けられます(労働基準法15条1項)。
特に、福利厚生として手当や特別休暇を設ける場合、原則として書面による明示が必要となる点に注意が必要です(労働基準法施行規則5条4項)。ただし、従業員が希望する場合には、FAXや電子メールによる明示も認められます。
福利厚生について、従業員に課税される場合がある点に要注意
職人向けの福利厚生制度を導入する場合、職人に対して所得税・住民税が課税されることがある点に注意が必要です。
福利厚生を与えられた従業員は、何らかの経済的利益を得ることになります。その際、従業員の所得が増えたものとして、所得税や住民税が課税されることがあります。
会社としては、福利厚生に対して課税されるかどうかによって、源泉徴収や年末調整の金額に影響が生じる可能性がある点にご注意ください。
所得税・住民税の課税に関する取扱いは、主な福利厚生の種類ごとに以下のとおりです。
住宅手当・家賃補助
住宅手当や家賃補助は、原則として通常の給与と同等の扱いとなり、所得税・住民税の課税対象となります。
例外的に、会社名義で借りた物件を従業員に安く貸す場合には、社宅手当として非課税になることがあります。
ただし、社宅手当を非課税とするには、従業員から一定額の家賃を徴収しなければなりません。
参考:
No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁
食事(現物支給)
従業員に対して食事(弁当など)を現物支給した場合、以下の要件をいずれも満たしていれば、給与として課税されません。
(a)従業員が食事の価額の半分以上を負担していること
(b)会社の負担額が、1か月当たり3,500円(税抜、10円未満切り捨て)以下であること
また、残業・宿日直を行う際に支給する食事は、無料であっても課税対象外です。
反対に、上記の要件を満たさない場合には、現物支給の食事に対して所得税・住民税が課税される点に注意が必要です。
食事代(金銭)
従業員に対して食事代として金銭を支給する場合は、原則として全額が所得税・住民税の課税対象となります。
ただし、深夜勤務者に夜食の支給ができないため、1食あたり300円(税抜)以下の金額を支給する場合には、例外的に給与として課税されません。
参考:
使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合|国税庁
施設利用の優待
会社が契約した福利厚生施設を従業員に安く利用させる場合、従業員の受ける経済的利益は、原則として所得税・住民税の課税対象外です。
ただし、以下のいずれかに該当する場合には、例外的に所得税・住民税が課税される点にご注意ください。
(a)経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合
(b)役員だけを対象として福利厚生が与えられる場合
参考:
所得税基本通達36-29(課税しない経済的利益……用役の提供等)|国税庁
まとめ
福利厚生制度を上手に活用することで、職人の離職率を低く抑えられる可能性があります。
自社の雇用する職人のニーズをヒアリングしたうえで、効果的に職人のモチベーションを維持・向上させられるような福利厚生制度の内容をご検討ください。
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文/阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
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