TOP インタビュー 建設系YouTuberが語る、次世代の建設業に求められる組織づくりとは

建設系YouTuberが語る、次世代の建設業に求められる組織づくりとは

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建設系YouTuberである「ヨッシー親方」こと鍔田 佳宏さんは、ビルや工場の断熱工事を主とする工事会社「株式会社CiRCUS」の経営者でもあります。
建設業では若手人材の育成が大きな課題となっているなか、ヨッシー親方は独自のキャリアデザインや評価制度を確立し、人材育成に活用しています。
また、株式会社CiRCUSでは副業も推奨しており、現場の仕事よりも副業を優先することもできます。
ヨッシー親方の人材育成とはどんなものなのか、人材が活躍する組織のあり方とはについてお聞きしました。

※前編はこちら

建設業でこそ大事なキャリアデザイン

赤木:ヨッシー親方から見て、建設業の大きな課題はなんだと思いますか?


ヨッシー親方:やはり人材確保ですね。人材確保は令和に入って更に難しくなった印象です。

赤木:人手不足は深刻ですよね。

ヨッシー親方:そういう意味では、キャリアデザインが凄く重要だと思います。

赤木:そもそもキャリアの概念があまり明文化されていなかったりしているみたいですね。

ヨッシー親方:そこで、弊社では仕事のスキルと昇給を対応づけた表を作っており、スマホでも見れるデジタルハンドブックという形にしています。


それぞれのスキルについて1~5までの段階と、それぞれの習熟度を対応づけしている

赤木:これは凄いですね。

ヨッシー親方:僕は前職で一番早く給与が上がっていきました。それは嬉しかったんですが給与が上がる前と上がった後で、必ずしもスキルが上がったわけではありませんでした。具体的になぜ給与が上がったのか納得できなかったこともあり、自分の会社ではそれを明確にしようと考えました。

赤木:これなら必要な技術を効率的に覚えていこうって意識にもなりますね。


ヨッシー親方:他には、あえて建設業以外のキャリアを積んでいくことも推奨しています。弊社では、副業を推奨していて、本業と日程がかぶった時は副業を優先するようにしています。

赤木:それは凄いですね!

ヨッシー親方:ただし、条件として、本業よりも高い単価で受注するように言っています。シフトはあらかじめ社内で共有されているので、副業で現場に入れない時は別の人が残業するなどして対応できるようにしています。他には、動画編集に興味がある社員がいたら、その日のうちにMacBookを買って貸与したりしています。

赤木:それは会社にとってプラスになっているんですか?

ヨッシー親方:例えば絵を書くのがうまい社員がいて、NFTやLINEのスタンプを作ったりしているんですが、その社員にはYouTube動画の挿絵を描いてもらっています。MacBookの貸与にしても、他の社員がYouTubeの編集ができるようになったら僕の時間が空きますし、そもそも採用コストに比べればMacBook1台の方が安いですよね。

赤木:なるほど。

ヨッシー親方:建設業はこれから変わっていくでしょうし、弊社も今までにない事業展開をする可能性もあります。その時、彼らの副業がそのまま会社の事業となり、彼らが事業責任者として自分の好きな事で会社を成長させてくれるかもしれません。従業員の規模が増えれば、その可能性はより高まります。

赤木:写真や絵が事業化する可能性もあるんですね。


ヨッシー親方:弊社の社名「株式会社CiRCUS」は、色んな職種の人が、それぞれの専門性を活かせる会社であるという意味が込められています。ちなみに、「i」の字が小文字なのは、「自分(I)」を大きく見せないということから、謙虚でいるという意味を表しています。

赤木:多様な人材が業界の可能性を広げる余地を持っているんですね。

ヨッシー親方:弊社では主に業界未経験者を採用しています。それは、業界内で人材の取り合いをしても業界全体の職人の数が変わらない点と、他の業界経験者が入ることでイノベーションが起きる可能性があると思っているからです。

赤木:ここでも業界全体のことを意識されているんですね。今まで採用した方の前職ってどんな業界ですか?

ヨッシー親方:製氷会社や芸人、飲食店やプールの監視員、掃除屋や競輪の運営をしていた社員もいます。

赤木:ほんとに多様ですね。

チームビルディング

ヨッシー親方:建設業の人材確保でもう一つ重要な点は、チームビルディングだと思います。

赤木:チームビルディングですか?

ヨッシー親方:社員が離職しない理由として、待遇面ももちろんですが、「このリーダーについていきたい」と思えるかどうかも重要です。そのためには、良いリーダーを育てていく必要があります。

赤木:人に関する部分は大きいですよね。

ヨッシー親方:それぞれのメンバーをマネジメントして、一つのプロジェクトを達成させるのがチームビルディングだと思っていますが、建設業においては、体系立てられたチームビルディングの方法が確立されていないと思います。

赤木:具体的にどういった点ですか?

ヨッシー親方:職人として技術が高い人がリーダーを任されることはよくありますが、職人のスキルと人をまとめるスキルは全く別物です。板前をやってたからフランス料理ができるはずといわれるようなものです。

赤木:料理ってくくりでは一緒だけど、必要なスキルの体系は全く別ですね。

ヨッシー親方:弊社ではリーダーになる人の条件は決まっていて、「人から好かれているか」という条件をクリアできないとリーダーにはなれません。

赤木:技術ではないんですね。

ヨッシー親方:技術があっても、人から嫌われる人がリーダーだと、みんなが力を貸してくれないからプロジェクトが破綻してしまいます。

赤木:プロジェクトだと個人の力量を超える部分が出てきますよね。

ヨッシー親方:リーダーがやるべきことは3つです。理念を語る・説明をする・責任を取ること、あとはユーモアですね。ユーモアは優しさでもあります。

赤木:理念・説明・責任ですか。

ヨッシー親方:漫画「ONE PIECE」の主人公 ルフィの有名なセリフに「海賊王に俺はなる」とありますが、あれが理念です。そこから、どうやって海賊王になるか、例えば財宝を見つける。その財宝を手に入れるまでに必要なものが何かを話す。これが説明です。

赤木:なるほど、向かう先と道筋を示すんですね。

ヨッシー親方:ルフィは決してなんでもできる船長ではないです。剣術はできないですし、航海術も料理もできない。「おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!!!」って自分でいってますけど、リーダーはそれでいいんです。それで宝がなくても、謝ればいい。

赤木:それが責任を取るということですね。

ヨッシー親方:会社はそういったリーダーの素養のある人に対して、リーダーの役割を説いて、リーダーとしてどこに向かうべきかを語る。リーダーに対するリーダーの役割を担います。そうやって、「このリーダーの下で働きたい」と思えるリーダーが増えていけば、建設業の人材流出を防ぐことができると思っています。

次の世代にバトンをつなぐ

赤木:今後やってみたいことってありますか?


ヨッシー親方:女性や若いかたが働きやすい、よりホワイトな業界を目指していきたいですね。給与や働き方、有給取得や重層下請構造など、まだまだ業界の課題は多くあります。そういった課題をクリアして、次の世代の職人さんに良い形でバトンをつないでいきたいと思います。

赤木:次の世代のためというのが素晴らしいですね。

ヨッシー親方:私自身は、厳しかった師匠のことを否定するつもりはありませんし、育てて頂いたことに感謝しています。でも、時代は変わっています。

若い人が自分の一方的な考えを通すのは良いとは思いませんが、両者がお互いの言葉に耳を傾け、お互いを理解していくことが必要だと思います。

[文/赤木 勇太]