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2023.1.8

経費にできるもの・できないもの|一人親方の確定申告における注意点を弁護士が解説

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建設業の労働者が一人親方として独立すると、事業所得の確定申告を行うことになります。その際、事業上の支出を経費として計上すれば、所得税・住民税を軽減することが可能です。

ただし、確定申告の際に経費として計上できるのは、業務の遂行上必要な費用に限られます。経費計上できないはずの費用を経費計上すると、税務調査の際に否認されて追徴課税を受ける可能性があるのでご注意ください。

今回は一人親方が経費計上することの多い費用項目のうち、税務調査で問題になりやすいものをピックアップして、経費にできるかどうかの判断基準を解説します。

一人親方としての所得は「事業所得」

個人事業主である一人親方が、工事などの受注によって得る所得は「事業所得」に当たります。

事業所得とは、対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得です(所得税法27条1項、所得税法施行令63条)。一人親方としての所得は、継続的に工事を受注することによって生じるものなので、原則として事業所得に当たります。

 

事業所得=総収入金額-必要経費

事業所得の金額は、1月1日から12月31日までに得た総収入金額から必要経費を控除した金額です(所得税法27条2項)。

 

事業所得=総収入金額-必要経費

上記の式によって求めた事業所得を、他の所得(給与所得・不動産所得など)と合算し、各種控除を除いた金額に対して所得税・住民税が課されます。

なお、事業所得がマイナス(総収入金額<必要経費)の場合は、他の所得の金額からマイナス分を控除できます(=損益通算。所得税法69条1項)。

 

必要経費の要件

事業所得の必要経費に当たるのは、以下のいずれかに該当する費用です(所得税法37条1項)。

 

(1)総収入金額に対応する売上原価、その他その総収入金額を得るために直接要した費用

(2)その年に生じた販売費、一般管理費、その他業務上の費用

 

家事費・家事関連費の取り扱い

業務の遂行上必要な費用であれば、全額を事業所得の必要経費として計上できます。

これに対して、生活費など事業に関係ない費用(=家事費)は、事業所得の必要経費としては一切計上できません(所得税法45条1項1号)。

 

また、「事業にも生活費にも関係する」という費用は「家事関連費」と呼ばれています。

 

家事関連費については、事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合などに限り、その部分に限って必要経費に算入できます(所得税法施行令96条)。

「業務の遂行上必要な部分」であるか否かは、以下の事情を総合勘案して判定されます(所得税法基本通達45-1)。

 

・業務の内容・経費の内容

・家族および使用人の構成

・店舗併用の家屋その他の資産の利用状況

など

 

必要経費になる? ならない? 一人親方が注意すべき費用

所得税や住民税を可能な限り減らしたいと、あらゆる費用を必要経費として計上してしまうのは、一人親方を含む個人事業主によく見られる問題点です。

前述のとおり、事業所得の必要経費として計上できるのは、業務の遂行上必要な費用に限られます。計上できないはずの必要経費を計上すると、税務調査で否認されて追徴課税を受けるおそれがあります。

 

特に以下の費用については、不適切な形で必要経費に計上した結果、税務調査で問題となるケースが多いので注意が必要です。必要経費に計上できるかどうかの判断が難しい場合には、税理士などにご相談ください。

 

(1)自宅兼事務所の賃料(2)通勤用自動車の購入費用

(3)昼休みのランチ代

(4)旅行の費用

 

自宅兼事務所の賃料

一人親方の場合、事業専用の事務所を借りることなく、自宅と事務所を兼ねるケースも多いでしょう。

 

自宅兼事務所の賃料は、「家事関連費」の典型例です。

家事関連費については、業務の遂行上必要な部分と、そうでない部分(=家事費)を区分した上で、前者のみを事業所得の必要経費に計上できます。

 

通常は、自宅兼事務所の床面積を、事務所として使用する部分と自宅として使用する部分に区分し、事務所部分の割合に相当する賃料のみを経費計上します。

 

(例)

・自宅兼事務所の賃料は月10万円

・事務所部分と自宅部分の床面積の割合は2対8

→月2万円に限り、事業所得の必要経費に計上可能

 

通勤用自動車の購入費用

一人親方が工事現場などへ通勤する際に用いる自動車の購入費用も、事業所得の必要経費として計上できる場合があります。

 

自動車の購入費用は、耐用年数に応じた「減価償却」によって経費計上します。

自動車の耐用年数は、普通自動車であれば6年、軽自動車であれば4年です。減価償却の方法には、「定額法」と「定率法」の2種類があります。

 

(a)定額法自動車の取得価額を、耐用期間で均等按分して減価償却を行います。

(例)

300万円の普通自動車(新車)を取得

→1年当たり50万円を減価償却費として経費計上

(b)定率法

毎期期首の未償却残高に一定の率を乗じて減価償却費を計算します。

(例)

300万円の普通自動車(新車)を取得

→1年目は99万9000円、2年目は66万6333円、3年目は44万4444円、4年目・5年目は各29万7334円、6年目は29万5554円を減価償却費として経費計上

 

ただし、自動車を事業用だけでなく、家族での移動など生活用にも使用している場合、減価償却費は家事関連費に当たるため、事業割合に相当する部分のみを経費計上可能です。

 

(例)

・1年間の減価償却費は50万円

・事業用に8割、生活用に2割使用

→年間40万円に限り、事業所得の必要経費に計上可能

 

昼休みのランチ代

一人親方が工事現場などの昼休みにとる食事(ランチ)の代金を、事業所得の必要経費に計上できるかどうかはケースバイケースです。

 

まず、一人親方が一人で食事をとった場合、ランチ代を経費計上することはできません。この場合、生きていくために必要な食事をとったに過ぎず、その費用は事業と関係がない「家事費」にほかならないからです。

同様に、仕事とは関係がない友人などのランチについても、その代金は経費計上できません。

 

これに対して、工事現場の同僚など仕事関係の人とランチをとった場合は、代金を経費計上できる可能性があります。この場合、代金の領収書をもらった上で、誰と食事をして何を話したかなどをメモ書きしておきましょう。

将来的に税務調査が入った際に、ランチ代が業務の遂行上必要な費用だったと説明できるようにしておくことが大切です。

 

旅行の費用

純粋なプライベートで行った旅行の費用は、事業所得の必要経費に一切計上できません。事業とは関係がない「家事費」に当たるためです。

 

これに対して、取引先を接待するために行った旅行の費用は、事業所得の必要経費に計上できます。

また、業務とプライベートの要素が両方含まれる旅行に行った場合は、家事関連費として按分し、事業割合に相当する金額のみ必要経費への計上が可能です。

 

特に、家事関連費に当たる旅行の費用を必要経費として計上する際には、旅程表やレポートなどを保存して、どのような根拠で家事按分を行ったのかを説明できるようにしておきましょう。

 

[文/阿部 由羅]

ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。

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