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2022.11.6

あの時の職人はあなたですか?本棚が繋ぐ「つくる人」と「使う人」

2022年11月6日更新

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ありがとう、名も知らぬ職人さんたち。
この記事は、この一言を伝えるためのものだ。
作って、渡して、終わり。もの作りに携わる人たちは、自分が作ったものを受け取る人の顔を見ることは少ないだろう。

だからこそ、わたしは伝えたい。「あなたが作ったもののおかげで、わたしは幸せですよ」と。

買っては壊れ、壊れては買い…本棚は消耗品

もしあなたが、「いままでで一番買い替えた家具はなんですか」と聞かれたら、なんと答えるだろうか。

ソファーや座椅子、デスクチェアのような、毎日長時間座るイス? それとも、環境に合わせて新調する机? インテリア好きの人なら、季節や気分に合わせて、カーテンを変えることもあるかもしれない。

わたしはといえば、これはもう即答だ。

「本棚」

わたしは小さいころから本の虫で、とにかくもう本が大好きだった。

小学生のとき、みんながプールに行ったりプリクラを撮ったりしているのを横目に、開館と同時に図書館へ行き、借りた本をその日じゅうに読み切って、次の日はまた別の本を借りる毎日。

当然、家にもたくさんの本があって、ずらりと並べたマイ・コレクションの本たちを眺めてニヤニヤするのが日課だった(ちなみにマンガもかなりもっていた)。

しかしそうなると、困るのは本棚だ。

とにかく大きい本棚を!といろいろ買ってみたものの、幅が広い本棚はそれだけ1枚の棚板にかかる負荷が大きく、すぐにたわんでしまう。

かといって高さがある本棚は倒れるリスクが高くて怖いし、そもそもわたしは背が低いから使いづらい。

たわみが大きい棚板とそうでない棚板と定期的に入れ替えたり、たわんだところの本を減らして床に積んだり、スライド式の二重本棚にしてみたり……と試行錯誤してはみたものの、やはり本の重さは侮れず。

とにかくすぐに、本棚がダメになってしまうのだ。

限界がきた棚板が落下し、下の本がぺちゃんこに……という悲しい事故が何回あったことか。ごめんね、テニプリ(1番下の棚にあったので、よくぺちゃんこ被害者になっていた)

憧れのマイホーム、唯一の注文は「壊れない本棚」

中学を卒業し高校に進学するタイミングで、両親が憧れのマイホームを建てることを決めた。神奈川の海沿いにある、現在の実家である。

両親に「なにか希望はある?」と聞かれたら、年頃の女の子はきっと、「広い部屋」や「ウォークインクローゼット」と言うだろう。でもわたしは即座に、「壊れない本棚!」と答えた。食い気味で。

しょっちゅう売りに行かないと収まらないくらい、日々大量の本を買っていたから、とにかく本棚の消耗が激しくて。かといって本を読むことをやめる選択はありえないし、どうしたものかとつねに悩みの種になっていた。

せっかくのマイホームなら、この悩みを解消したい! っていうか、丈夫ならなんでもいいから、とにかく壊れない本棚がほしい!

それを聞いた両親は、「あなたらしいねぇ」と苦笑していた。服より本の15歳女子。

わたしの希望を受け、設計士の方が「建付け本棚ありきの部屋」を考えてくださり、立派なマイ・本棚が手に入ることになった。

でも正直なところ、建付け本棚にも、そこまでは期待していなかった。いままでいろんな本棚を試して、それでもぜーんぶダメだったから。

むしろ、「建付けって壊れても買い替えられないよな……。壊れたらどうしよう。もしかしてふつうに買ったほうがよかったかもしれない」と、不安になっていたくらいだ。

真夏に汗を流しながらわたしの家をつくる「職人さん」

マイホーム建築中、様子を見に行くと言う両親に、一度だけついていったことがある。

たしか8月ど真ん中の猛暑日で、差し入れとして、冷えたお茶やジュースなどをたくさん買って行った。

我が家になる予定のものはまだ柱がむき出しで、「これが自分の家になるのかぁ」と、ふしぎな気持ちになったことを覚えている。

「うち」のまわりには、作業着に身を包み、大粒の汗を額に光らせながら、もくもくと作業している人が何人もいた。みんな肌が小麦色でガタイがよく、わたしたちが声をかけると笑顔で挨拶をしてくれる。

「これ、みなさんに」と飲み物を渡すと、「ありがとうございます!」と、これまたハキハキとした返事が返ってきた。なんだかとても頼りになりそうだ。

責任者らしき人が出てきて、両親に自己紹介をしてから話をはじめたけど、ほかの作業員の方たちはすぐに作業に戻り、きびきびと仕事を再開。

わたしがクーラーがガンガン効いた車内でマンガを読んでいるあいだ、この人たちは真夏の屋外で、ずっと働いていてくれたのだ。わたしたちが住む家のために。

どこのだれかもわからない、職人さんたち。

どんな人かもわからない。どこから来て、どんな人生を送って、なぜその仕事をしているのかも、なにも知らない。

そんな人たちが、一生懸命、真夏に汗をかいてわたしたちの家を作ってくれている。

建築現場を一度も見ていなかったら、その人たちの存在を意識することなんて、一生なかったかもしれない。でもたしかに、わたしが住む家は、職人さんたちが作りあげたものなのだ。

つくる人と使う人の距離が遠くなり、消えた「感謝の気持ち」

……とまぁ昔話が長くなってしまったが、本棚の話に戻ろう。

結論からいうと、建付け本棚は築15年経ったいまでもバリバリ現役で、たわみもほとんどなく、いまも実家に残した本たちをそっと守り続けてくれている。

そう、わたしが小さいころから悩んでいた「本棚問題」は、建付け本棚によって完全に解決したのだ。

我が家で、いったい何度、「この建付け本棚強すぎる」という会話をしたことが。いや本当、こんなに頑丈な本棚がこの世に存在するなんて思いもしなかったよ。見るたびに「すごいな」って思う。いまでも。

しかし残念なことに、わたしはこの本棚をつくってくれたのはだれなのか、まったく知らない。

家というのは、施主である個人と住宅会社のスタッフが相談して話を進め、実際の引き渡しの際も、同席するのは住宅会社のスタッフだ。

打ち合わせで建築士と話すことはあるが、実際に家をつくってくれる作業員の方々と顔を合わせることはほとんどない。

それこそ、わたしたち家族が見学に行ったとき、一度挨拶をしたときくらいだ。

でもそのとき会えたのは外壁を担当する人だけで、内装や配管などを担当してくださった人たちと会うことは、今後もないだろう。

モノを作る人と、ソレを使う人。

昔ならば両者が関わりあうことも多かっただろうが、いまは分業が進み、両者が顔を合わせる機会はグッと減っている。

それがちょっと、残念だと思う。

入居後の「その後いかがですか」「困ったことはありませんか」という住宅会社スタッフからの連絡に、いくらこちらが家の満足度を伝えても、作業員の方々にはなかなか届かない。

わたし自身、家具屋の販売員として働いていたとき、お客様から「食器棚のおかげで料理がはかどっている」「ソファの座り心地がよくて子どもがご機嫌」といったお声をいただくことが多々あった。

しかしそれを、家具をつくっているメーカーに伝えたことはない。

小売店がメーカーに、お客様の声をわざわざ届けることって、まずないんじゃないだろうか。慣例として。

ちゃんと「作った人」に伝えたほうがよかったなぁ……と、いま改めて思う。
その感謝や賞賛は、売った人だけではなく、作った人も受け取るべきものなのだから。

ものを作る人に伝えたい、「ありがとう」の一言

引っ越しや家の購入を考えるとき、多くの人は、駅からの距離や日当たり、間取り、治安などに注目するだろう。

実際に家に住んでも、「キッチンが広くて料理がしやすい」「防音がしっかりしていて騒音に悩まされない」といった感想を抱いても、「丁寧につくってくれたんだな」「丈夫な作りで安心だ」と、作ってくれた人の存在を思い出す人は少ないと思う。

わたしだって、つね日ごろから「作った人に感謝しているか」と言われれば、即答はできないし……。

そして作る側も、仕様書のとおり作って、引き渡して、それで終わり……ということが多いのではないだろうか。

「いったいどんな人が使うのだろう」「この前つくったアレは、満足してもらえただろうか」なんて、いちいち考えてもしょうがないものね。

こうやって「作る側」と「使う側」の距離が離れているから、本来あるべき「感謝」が伝えられなくなり、そして「感謝」自体も消えてなくなってしまっているんじゃないかと思う。

だからこそわたしは、伝えたい。

真夏に汗を流しながら、わたしの家を作ってくれた人に。
大切な思い出が詰まった本たちの居場所、15年間劣化しない頑丈な本棚を作ってくれた人に。

「あなたの丁寧な仕事のおかげで、わたしは幸せですよ」と。

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文/雨宮紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。twitter→@amamiya9901

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