TOP インタビュー 竹中工務店・急成長ベンチャー企業でのキャリアを捨てたアトツギ!6ヶ月で15名の応募を獲得した採用改革!

竹中工務店・急成長ベンチャー企業でのキャリアを捨てたアトツギ!6ヶ月で15名の応募を獲得した採用改革!

2025年6月12日更新

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「うちの会社、応募が全然来ないんだ…」 

建設業界の採用担当者なら、一度は頭を抱えたことのある悩みではないでしょうか。業界特有のイメージ、厳しい労働条件、若者の建設業離れ――採用にまつわる課題は山積みです。

しかし、そんな厳しい状況下でも、知恵と情熱で採用を成功させ、社員が「ここで働きたい」と思える会社へ新たな取組を進めている企業があります。

創業65年のダクト工事会社、有限会社湯浅鈑金工作所(以下、湯浅鈑金工作所)。同社の3代目候補である湯淺 弘明氏が家業に戻った当初、採用状況は「過去3年間応募ゼロ」という深刻なものでした。それが今や、半年で15名の応募を獲得し、4名を採用するまでにV字回復。一体、湯淺氏は何を変えたのでしょうか?

本記事では、湯淺氏へのインタビューを通じて、同社の採用戦略と組織変化のリアルな道のりを追います。

会社情報

有限会社湯浅鈑金工作所
大阪府摂津市の自社工場にてダクトを製作し、関西地域のゼネコン現場にてダクト取付工事を手掛けている。
アトツギへの事業承継をすでに視野にいれており、「社員の平均年齢30代」、「有給休暇は平均14日取得」、「給料を上げながら4週6休(隔週土曜休み)の確保」などチャレンジを続けている、創業65年の老舗ダクト工事会社。

インタビュー者紹介

有限会社湯浅鈑金工作所 企画開発室 室長 湯淺 弘明 氏
関西大学を卒業後、2015年にスーパーゼネコンである株式会社竹中工務店に入社。
東京本社管轄のホテル・マンション現場への配属を経て、本社にて新規事業・DX事業等の法務担当として従事。(約7年在籍)
その後、2021年に建設業の人手不足解消を目指す、ITベンチャーである株式会社助太刀に転職し、経営戦略グループの担当、エンタープライズセールスのグループリーダーとして約2年従事したのち、2023年に家業である湯浅鈑金工作所に入社。

“応募ゼロ”の危機感

湯淺氏が本格的に経営に関与し始めた時、目の前にあったのは「過去3年間の応募はゼロ。」という厳しい現実でした。

このままでは、会社の未来はない――。強い危機感が、湯淺氏を突き動かします。

「情報が求職者に届いていない。そもそも、うちの会社の魅力って何だろう?若い人が働きたいと思える環境なのだろうか?」

湯淺氏はまず、この根本的な問いと向き合いました。
そして、「10年後も選ばれ続ける会社になるためには、採用のやり方も、社員との向き合い方も、全てを変えなければならない」と決意。その変革の第一歩は、会社の「顔」である採用活動の抜本的な見直しから始まりました。

「見つけてもらう」から「魅力を伝える」へ~採用戦略の転換~

「過去のやり方では、もう人は採れない」。湯淺氏は、待ちの姿勢から攻めの採用へと舵を切ります。

その戦略の柱は、「ターゲットの再定義」「動画による情報発信」「応募ハードルの低減」でした。

1.ターゲットを「ダクト工事経験者」から「業界経験者」へ拡大

「ダクト工事の経験者をいきなり採用するのは難しい。それならば、建設業界での経験がある20代から30代前半の方に来てもらおうと考えました」と湯淺氏は語ります。
業界の基本が分かっていれば、専門技術は入社後に教えられる。この発想の転換が、応募の門戸を広げました。

2.「百聞は一見に如かず」動画の力でリアルを届ける

湯淺氏は自社の魅力が伝わるようにアピールしたい。入社後のミスマッチを減らしたいという思いから、会社紹介や働く魅力を語った動画を制作しました。

驚くべきは、その動画が「費用をかけず、iPhoneと手作りのスライドで、わずか3日で内製した」という点。「会社の雰囲気をリアルに伝えたい」その一心が生んだ工夫でした。

また、助太刀社員の動画掲載が可能なプランを利用して、動画の掲載を始めました。

結果として、応募者からは「動画を見て会社の空気感がよく分かった」「面接前に安心できた」という声が寄せられ、ミスマッチの減少にも繋がっています。

「YouTube動画の掲載が、応募数増加に大きく貢献しました。半年で15名の応募に繋がったのは大きな成功体験です」。


湯浅鈑金工作所 会社紹介動画

さらに、若年層へのアプローチとして、「休憩中にスマホでショート動画を見る若い人が増えている。求人広告より親しみやすいのでは」と、TikTokでの情報発信もスタート。常に新しい手法にアンテナを張っています。

@yuasa_bankin

大阪・京都・兵庫を中心に空調設備工事(ダクト工事)を得意とする湯浅鈑金です🛠️✨ 一緒に働いてくれる社員さん募集中!お気軽にDM・コメントください👷‍♂️‼️ #建設業 #空調設備工事 #採用

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湯浅鈑金工作所 Tiktok公式アカウント

3.「まずはお会いしませんか?」カジュアル面談で心の壁を取り払う

「履歴書は不要です。まずは気軽にお話ししましょう」。湯淺氏は、応募の心理的ハードルを徹底的に下げました。

「どんな会社か、どんな人がいるのか、応募者は不安でいっぱいのはず。だからこそ、まずは私たちについて知ってもらうことから始めたいんです」。趣味の話や雑談も交えながら、お互いを理解する場を大切にしています。

これらの取り組みの結果、事態は劇的に好転。「応募ゼロ」から、わずか半年で15名の応募があり、4名が入社。湯淺氏は「計画を上回る成果に、確かな手応えを感じています」と語ります。

社員満足が採用力を高める

人が集まっても、定着しなければ意味がない。湯淺氏の挑戦は、社員が「ここで長く働きたい」と心から思える環境づくりへと続きます。

1.「休みは増やす。でも給料は下げない(むしろ上げる!)」有言実行の働き方改革

「休みは欲しいけど、給料が減るのは困る」――これは従業員の本音です。建設業界の従来の慣習を見直すべく、同社は約1年前、「隔週または月2回の土曜休み」を導入。
さらに、「休みを増やしても給料は下げない。昨年度は、ほとんどの社員が休日増と共に給与もアップしました」と湯淺氏。

この大胆な改革を実現できたのはなぜか。「何よりもまず、『やるんだ!』という社長の強いリーダーシップがあったから。

そして、現場の職長たちが『工程に遅れを出さず、生産性を上げて休むんだ』と理解し、協力してくれているからこそです」と、経営の覚悟と従業員の結束力を強調します。

「家族と旅行に行ってきた、なんて話を聞くと、本当にやって良かったと思いますね。面接でも、『休日制度に魅力を感じた』といってくれる人が多いんです」。社員の笑顔と応募者の期待が、取り組みの成果を物語っています。

2.安心を支える福利厚生、成長を後押しする資格取得支援

家族手当の支給や、業務に必要な資格取得費用の全額会社負担。
「特に資格は、ゼネコンの現場に入る上で不可欠。社員のスキルアップを会社が全面的にバックアップする体制をとっています」と湯淺氏。
目先の利益だけでなく、社員の長期的なキャリア形成を支援する姿勢が伺えます。

3.「5年後の自分」が見えるか?キャリアパスと評価制度への挑戦(構想含む)

「5年後にはこの役職で、この資格を取って、給料はこれくらい…そういう具体的な目標を社員一人ひとりと共有したいんです。まだ道半ばですが、必ず実現させたい」と、キャリアパスの明確化に意欲を見せます。

評価制度についても、「経験年数だけでなく、会社の方針に共感し、利益に貢献してくれた人、そして何より、うちの会社の良い文化を一緒に作っていってくれる人を正当に評価できる制度にしたい」と、熱い想いを語ります。

「頑張った人が報われる、それも会社の成長に繋がる頑張りを評価したいんです」と、湯淺氏

4.「一人にしない」徹底したフォローと血の通った教育

採用して終わり、ではありません。入社前から入社後まで、手厚いフォローと実践的な教育で、新人が安心して成長できる環境を整えています。

「内定者とはLINEで連絡を取り合い、会社の資料やダクト工事の解説動画を送って、入社までの不安を少しでも和らげたい」。
そんな細やかな配慮が、入社後のスムーズなスタートを支えます。

教育は、まず工場での製作研修から始まります。そして、ここでも湯淺氏自身の苦い経験が生かされています。「僕自身、入社したての頃、『あれ取ってきて』といわれても、道具の名前すら分からなくて本当に困ったんです。だから、後から入る人には同じ思いをさせたくない。マニュアルを作り、新人の声を聞きながら、今も少しずつ改善を重ねています」。

定期的な1on1ミーティングについても、「タバコ部屋や自販機の前で、『最近どう?』と気軽に声をかける程度ですよ」と笑う湯淺氏ですが、その中で悩みや困りごとを丁寧に聞き出し、早期解決に繋げています。

想いが組織を動かす

一連の改善を力強く推進する湯淺氏。その根底には、会社と従業員に対する深い愛情と、揺るぎない信念があります。

「僕は、社長と従業員の皆さんの『架け橋』になりたい。上から指示するんじゃなくて、みんなの輪の『中心』にいて、自然と周りが動いてくれるような、そんなリーダーでありたいんです」。

家業に戻った理由を尋ねると、
「社長である父への恩返しはもちろんですが、何よりも、昔から会社を支えてくれている職人さんたちに、もっと良い給料を払える、もっと働きやすい会社にして恩返しがしたい。その気持ちが、僕を突き動かしています」と、真摯な言葉が返ってきました。

先代たちが築き上げた伝統を重んじながらも、変化を恐れず新しい挑戦を続ける。ベテランと若手、それぞれの価値観を尊重し、その間に立って相互理解を促す。
湯淺氏のこうした「人間力」こそが、組織に一体感を生み、変化を与える大きな要因といえるでしょう。

従業員と真摯に向き合い「選ばれる会社」に

湯浅鈑金工作所の挑戦は、多くの示唆に富んでいます。それは、採用を成功させ、従業員の定着を図るには、小手先のテクニックではなく「いかに従業員と真摯に向き合い、働きがいのある環境を本気で追求できるか」にあります。

動画での情報発信、働き方改革、教育制度――。これら一つ一つの施策は、全て「従業員のために何ができるか」という問いから始まっています。 

もし、『うちの会社には特別な強みなんてないのでは…』と感じていらっしゃるようでしたら、一度立ち止まり、自社ならではの良さや可能性を改めて見つめ直してみるのも一つの方法かもしれません。

湯淺氏が、手持ちのiPhone一つで動画制作に踏み出したように、新しい挑戦は意外と身近なところから始められるものです。あるいは、日々業務に励む社員一人ひとりの声に、じっくりと耳を傾けてみることから、思わぬヒントや改善の糸口が見つかることもあります。

それぞれの会社には、きっと独自の『選ばれる理由』が眠っているのではないでしょうか。

湯浅鈑金工作所の事例が、皆様の会社に選ばれる理由を見つめるきっかけになれば幸いです。