今回は、工事代金の未払いを防ぐための対策や、未払いの工事代金を回収するための法的手段について解説します。
目次
工事代金の未払いを防ぐために施工業者ができる対策
工事代金の未払いを未然に防ぐため、施工業者がとるべき対策としては、以下の例が挙げられます。
・受注内容をきちんと書面化する
・工事代金の一部を前払いとする
・連帯保証人を付けてもらう
・引渡しは残代金の決済以降とする
受注内容をきちんと書面化する
建設工事の受注に関する条件等は、書面または電子データにまとめて相互に交付することが義務付けられています(建設業法19条)。
工事代金の未払いを防ぐ観点からも、受注内容を書面化・データ化することは非常に重要です。きちんと書面・データを作成すれば、注文者側から「これは頼んでない」「依頼した内容と違う」などのクレームを受けるリスクを減らせます。
工事代金の一部を前払いとする
建設工事では、手付金・着工金・中間金・残代金というように、工事代金を何度かに分けて支払うことが慣例化しています。
工事代金の一部を注文者に前払いさせるのは、建築資材等を調達する費用を賄うためであると同時に、工事代金未払いのリスクを極力抑えるためです。前払代金の割合が高ければ高いほど、施工業者が負う工事代金未払いのリスクは小さくなります。
特に、注文者側の資金状況に不安がある場合などには、工事代金のうち相当部分を前払いとすることが望ましいでしょう。
連帯保証人を付けてもらう
注文者が工事代金を支払わない場合に備えて、あらかじめ連帯保証人を付けてもらうことも考えられます。
もし工事代金が未払いとなった場合には、施工業者は連帯保証人に対して、注文者が支払うべき工事代金全額の支払いを請求できます。
なお、個人が連帯保証人となる場合には、保証の対象とする債務を具体的に特定するのでない限り、極度額の定めが必要となる点にご注意ください(民法465条2項)。
(例)
「連帯保証人は、注文者が本契約に基づいて負担する一切の債務を連帯して保証する。」
→「本契約に基づいて負担する一切の債務」という表現では、債務が具体的に特定されていないため、極度額の定めが必要
「連帯保証人は、注文者が本契約に基づいて支払うべき工事代金5000万円を連帯して保証する。」
→「工事代金5000万円」という形で債務が具体的に特定されているため、極度額の定めは不要
引渡しは残代金の決済以降とする
施工業者は、注文者から工事代金の支払いを受けるまでの間、工事によって完成した建物等の引渡しを拒否できます(民法533条)。これを「同時履行の抗弁権」といいます。
同時履行の抗弁権に基づき建物等の引渡しを拒否すれば、未払いの工事代金の支払いを促すことに繋がります。先に建物等を引き渡すと、同時履行の抗弁権を行使できなくなってしまうので、引渡しは残代金の決済完了以降としましょう。
未払い工事代金回収の法的手段を講ずべきタイミング
注文者が頑なに未払い工事代金の支払いを拒否する場合、施工業者はどこかのタイミングで、法的手段を用いた回収を試みる必要があります。
以下のいずれかの状態に至った場合には、法的手段による回収へ移行するのがよいでしょう。
・支払いを拒否する姿勢が明らかに見えた場合
・内容証明郵便による催告に対して反応がなかった場合
支払いを拒否する姿勢が明らかに見えた場合
未払い工事代金は、協議を通じて任意に支払ってもらえることが望ましいですが、歩み寄りの余地がない場合にまで協議を続けても時間の無駄です。
たとえば、
・注文者と施工業者の主張が完全に食い違っている
・注文者は工事代金を一切支払わないと言っている
・工事代金の支払いを拒否されただけでなく、注文者から損害賠償を請求されている
といった状態の場合には、協議を打ち切って法的手段による解決を目指すべきでしょう。
内容証明郵便による催告に対して反応がなかった場合
法的手段による工事代金の回収に移行する前に、注文者に対して内容証明郵便による催告を行うことも考えられます。ご自身での対応が難しい場合は、弁護士に依頼すれば内容証明郵便を代理発送してもらえます。
内容証明郵便の送付は、本格的に債権回収へ移る前の「最後通告」であるとともに、工事代金請求権の消滅時効完成を6か月間猶予する効果があります(民法150条1項)。
内容証明郵便には、工事代金の支払い期限を明記しておきましょう(1~2週間後程度が目安)。期限までに支払いがなければ、注文者に支払いの意思なしと判断して、法的手段に移行すべきタイミングといえます。
未払い工事代金を回収する法的手段
未払い工事代金を回収するためには、支払督促または訴訟を経て、裁判所に強制執行を申し立てましょう。
支払督促
「支払督促」は、裁判所から債務者に対して、債務の支払いを督促する書面を送付してもらう手続きです*1。簡単な書類審査のみで済むため、大きな手間がかからないメリットがあります。
支払督促の送達を受けた注文者が2週間以内に異議を申し立てない場合、さらに「仮執行宣言付支払督促」の申立てが可能となります。裁判所によって仮執行宣言付支払督促が発せられると、強制執行の申立てが可能となります。
なお、支払督促または仮執行宣言付支払督促に対する適法な異議申立てがあった場合には、自動的に訴訟手続きへ移行します。
訴訟
「訴訟」は、裁判所の判決によって紛争を解決する手続きです。
裁判所の法廷で工事代金請求権の存在を立証すれば、裁判所は注文者に対して、工事代金の支払いを命ずる認容判決を言い渡します。認容判決が確定すれば、強制執行の申立てが可能となります。
訴訟は長期化しやすく、1年以上にわたって争われるケースも珍しくありません。そのため、信頼できる弁護士のサポートを得ることをお勧めいたします。
強制執行
仮執行宣言付支払督促や確定判決などを得た後、裁判所に対して強制執行を申し立てましょう。
強制執行手続きでは、裁判所(または執行官)注文者の財産を差し押さえた上で、強制的に工事代金の弁済へ充てます。不動産・預貯金債権・給与債権など、幅広い財産が強制執行の対象です。
債務者財産が特定できない場合の対処法
工事代金について強制執行を申し立てる際には、債務者である注文者の財産を特定する必要があります。
しかし施工業者は、注文者の財産を全く把握していない場合や、把握している財産だけでは工事代金の完済に足りない場合もあるでしょう。このような場合には、以下の手続きを申し立てれば、注文者の財産を特定できる可能性があります。
(1)財産開示手続(民事執行法196条以下)
注文者を裁判所に出頭・宣誓させ、所有する財産に関する陳述を義務付ける手続きです。注文者が出頭義務・宣誓義務・陳述義務に違反した場合、刑事罰(6か月以下の懲役または50万円以下の罰金)の対象となります(同法213条1項5号、6号)。
(2)第三者からの情報取得手続(同法204条以下)
登記所・官公署・金融機関から、注文者が所有する不動産・給与債権・預貯金債権等に関する情報を取得する手続きです。
まとめ
工事代金が未払いとなっても、債権回収のためにさまざまな法的手段が用意されています。利用可能な法的手段を幅広く活用して、効果的に工事代金の回収を図りましょう。
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
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