TOP インタビュー 児童養護施設の子どもの支援×建設業の人手不足解消に向けた妙案

児童養護施設の子どもの支援×建設業の人手不足解消に向けた妙案

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Twitterで有名なリフォーム大工の「理事長」さん。素のままの自分を出す事でTwitterの人気者になりましたが、最近は児童養護施設の子どもたちをアルバイトとして受け入れる形で支援する活動も、精力的に行っています。
施設の子どもを取り巻く現状や課題。建設業の人手不足解消にも繋がる取り組みについて、理事長さんにお伺いしました。

【プロフィール】
▼豊崎 道則さん
株式会社三光ホーム 代表取締役
15歳から大工になり、21歳で独立。Twitter上では「理事長」として、自由な投稿スタイルから人気に。(こちらについては前編をご参照ください)
リフォーム会社経営とともに、児童養護施設の子どもをアルバイトとして受け入れ、大工として技術を身につける支援活動を行う。

児童養護施設への寄付がきっかけで、少年たちをアルバイトに受け入れ

赤木:最近、理事長さんのTwitterで面白い投稿を見たんですが、児童養護施設の子どもをアルバイトとして受け入れているんですよね。あれってどういう経緯で受け入れになったんですか?

理事長:あれはたまたまで、2年前のクリスマス・イブに、なんとなく現場で従業員と話しながら現場に向かってたんだけど、ふと「施設の子どもってクリスマスはどうしてるんだろうな」って話になって。

赤木:ふと思う時ありますね。

理事長:それで寄付金でも持っていこうって話になって、近所の施設に連絡したのがきっかけで、寄付したあとも毎月お菓子を持っていったりしてたんだよね。

赤木:めちゃくちゃ立派!

理事長:そしたら施設の修繕の仕事を頂いたり、修繕やってたら子どもたちも手伝ってくれたりして仲良くなって。
それで施設の人にも子どもたちの事情を色々と聞いたんだけど、施設の子どもって18歳になったら施設を出なきゃいけなくて、それまでにまとまったお金を貯める必要があるんだよね。

赤木:確かに、住むところを見つけるのにもお金がかかりますしね。

理事長:大学に行きたいなら140万円は貯めなきゃいけないし、そうじゃなくても80万円は貯める必要があるんだけど、貯められない子は無一文で施設を出ることになる。

赤木:子どもが140万円も貯めるってかなり難しいですね。

理事長:飲食店でバイトしたりしている子どももいるけど、学校終わりだと2~3時間くらいしか入れないし、土日もシフトの兼ね合いで長時間入ったりが難しかったりするからさ。

赤木:確かに、高校生だと頑張ってもお小遣い稼ぎくらいにしかできないですよね。

理事長:だったらウチの会社でバイトしてもらおうって思って、施設に話をしたら子ども達から応募が凄く来て。ウチも全員を受け入れる事はできないけど、3人の子どもに来てもらい始めたんだよね。

赤木:建設業は人手不足って言われてるなか、応募が殺到するのは面白いですね。

理事長:それで考えたんだけど、もし18歳になってもウチで働きたいって言うなら、そのままウチに就職してもらおうって。15歳から18歳までバイトしてれば全くの素人って訳じゃないから、ゼロから若い子を育てるより早いでしょ。

赤木:確かに!お互いの事も分かってるし、いいですね。

理事長:リフォーム大工としてある程度一人前になるには5年くらいかかるんだけど、あと2年働けば独立とかも見えるだろうし。彼らとしても、手に職を持っておけば食いっぱぐれないしね。

赤木:職人として技術があれば、別の場所に移住したりしてもそこで仕事ができますからね。

虐待から逃げて来た子どもたち

赤木:施設の子どもはどんな事情で施設にいるんですか。

理事長:実は、ほぼ全員が親の虐待から逃げて来た子どもだね。

赤木:虐待…

理事長:内容も酷くて、小3で山奥に捨てられて2日間歩いた子とかもいるからね。そういう経験があるから、メンタルの波が激しかったりして。それで人間不信のまま18歳で施設を出るなんて、いきなりジャングルに放り出されるようなもんだから。

赤木:確かに、社会に出る準備が全くできてない状態ですからね。

理事長:住む家も無いから就職も寮があるところじゃないといけなかったり、その会社が合わなかったとしても逃げ場がないから、メンタルを壊しても続けるか、逃げ出して音信不通になってしまったりするし。

赤木:僕らだったら実家に帰れますけど、そういう逃げ場がないですからね。

理事長:施設を出た子をサポートするNPOもあるんだけど、それより前にサポートできる事があるんじゃないかって思って。だから彼らをアルバイトとして受け入れたのよ。

赤木:確かに、貯金ができて技術が身につけば、社会に出てからの選択肢が広がりますね。

理事長:子どもたちには「目の前の大人がいい大人か見極めろ」って言うようにしてる。いい大人とだけ付き合って、悪い大人とは距離を置くことができるだけで、社会で生き延びる確率が上がるじゃん。

赤木:そのセンサーを働かせるって大事ですよね。

理事長:単純に働く大人と過ごして免疫をつけるだけでも全然違うからね。

赤木:そうやって社会に慣れていきながら、貯金と技術を蓄えて備えて社会に出られたら、その後の安定感も気持ちも安定しやすいですよね。

理事長:実は日本中にこういう施設があって、2万人くらいの子どもがいるんだけど、施設の子どものことって誰も知らないよね。

赤木:そうですね。僕も初耳でした。

理事長:バイトに来てる子が「自分達みたいな子どもがいるって世の中の人は知らない」って言ってて、だからTwitterで彼らのことを発信してんだよね。

課題は理解ある受け入れ先の確保

理事長:そしたら今度は新しい課題が出てきて。

赤木:どんな課題ですか?

理事長:子どもの応募が増えてきて、ウチだけで受け入れができなくなってきたのよ。

赤木:人気なのは有難いけど、工務店1社だけでは受け入れきれないですよね。

理事長:とりあえず協力会社に受け入れをお願いしたりしてるんだけど、知らない会社に任せるのは恐いからね。

赤木:確かに、人が欲しいブラック企業とかなら喜んで受け入れしそう。

理事長:現場で子どもを殴ったり、劣悪な環境に入社させたりね。

赤木:本来は子どもを守る為にやってるのに。。

理事長:別に建設業に限定する必要もなくて、手に職系の仕事なら何でもいいと思ってる。本人たちの希望や合う合わないもあるしね。

ただ、受け入れ先の審査みたいなのはちゃんとやりたいね。こういう取り組みって「良い事してます」ってアピールもできるし人手不足も解消できるしで、うまく使えば良いことづくめになりかねないし、悪用されないようにはしておかないと。

赤木:あくまで子どもたちの未来の為ですからね。

子どもたちが社会と繋がるように

赤木:この取り組みは将来的にどう展開するか決めているんですか。

理事長:できればこの取り組みを全国に広げて、2万人の子どもを支援できるようにしたい。けど、そうすると審査もしきれなくなるだろうし、そこはまだ課題だね。

赤木:あくまで趣旨を理解してくれる先と繋げていくんですね。

理事長:だからいま考えてるのは、NPOとかを立ち上げて、寄付金を募りながらやっていくのもアリかなと思ってる。バイトといっても仕事によっては戦力にはならないだろうから、趣旨を理解してもらう前提で受け入れてもらって。それでお互いに合えばそのまま就職してもいいし。

赤木:趣旨を理解してもらうって前提は必要そうですね。

理事長:それをどこまで展開させていけるかは分からないけど、子どもたちが社会に出てもやっていけるように、色んな人と協力して支えていけるようにしたいね。

〔文/赤木 勇太〕

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