TOP インタビュー 営業ゼロで利益は前年比200% 人も利益も集まる会社の仕組み

営業ゼロで利益は前年比200% 人も利益も集まる会社の仕組み

2025年8月8日更新

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「売上は、前年とほぼ同じ。でも、利益は倍以上になった」

人手不足、高騰する資材、厳しい価格競争。多くの建設業経営者が課題を感じている現代。そんな中、内装解体を手掛ける株式会社政工業の森口社長はこう語る。

同社には、専門の営業職がいない。創業から20年以上、仕事は顧客からの紹介だけで成り立っている。それにもかかわらず、繁忙期には多くの仲間たちが「政工業の仕事なら」と集まり、質の高い仕事を成し遂げていく。

なぜ、彼らは過度な競争に陥らず、強固な経営基盤を築けているのか。同社は日々の挨拶や約束の遂行といった基本動作を徹底して実施している。このような基本的な行動の積み重ねが経営の基盤となっている。

本稿ではその取り組みから、これからの建設業経営のヒントを探る。

有限会社政工業 代表取締役  森口 政男 氏
印刷業界の営業職を経て、28歳で解体業界へ。独立、会社の休眠、そして事業再開といった波乱万丈な経験を乗り越え、有限会社政工業を設立。「現場が営業」を信条に、誠実な仕事と堅実な経営を貫いている。

「売上」ではなく「利益」を追求する


「社員にしっかり還元したい。会社を絶対に安定させたい。だから、うちが追うのは売上じゃない。利益です」

森口社長の信念は、この一言に表れている。売上規模の拡大を目指すのではなく、一件一件の仕事からいかにして最大限の利益を生み出すか。その意識が、会社のあらゆる活動の判断基準なのだ。

例えば、同社ではモノの管理を徹底する。道具はリースに頼らず、キャッシュで購入。そのすべてにナンバーを振り、PCで稼働状況を一元管理する。どこに何があり、次にどこで必要になるかを把握することで、無駄な投資を徹底的に排除する。この地道な管理が、利益創出の源泉となることを知っているからだ。

森口社長の利益へのこだわりは、社員への思いと直結している。

「頑張ってくれる社員がいるからこそ、会社は成り立っている」。だからこそ、生み出した利益は、高水準の賞与といった明確な形で社員に還元する。

こうした利益の還元によって、高校生のアルバイトから勤続20年近い中心メンバーが育っている。それが会社組織の強さとなっている。

「チーム」で体現する“現場が営業”の思想

政工業に専門の営業職はいない。なぜなら、現場で働く自社の社員と協力会社の仲間たち、その全員が「最高の営業担当」の役割を担っているからだ。

彼らにとっての営業活動とは、提案書を配ることではない。工期内にミスなく仕上げるという技術的な信頼はもちろん、例えば、現場の開始時にはスタッフ全員が挨拶を徹底し、作業後には必ず顧客に進捗を報告している。こうした地道な対応により、顧客から厚い信頼を得ている。

こうした努力によって顧客満足度が高まり、既存顧客から継続して依頼を受けている。さらに、口コミや紹介で新たな仕事も増えている。

「現場が営業」という言葉を、スローガンではなく現実のものとするために、同社は何よりも「チーム」としての信頼関係構築に全力を注いでいる。

建設業界では、時に元請けと協力会社との関係性が課題となることがある。その中で同社は、共に汗を流すパートナーを「政工業の一員」として遇する。

新しい仲間が現場に入る初日、自社の社員が必ず入口で出迎え、詰所までエスコートする。現場で問題が発生した場合も、個人が責任を負うことはなく、必ずチーム全体で解決策を考えている。

この姿勢は、パートナーを選ぶ基準にも表れている。

「『何でもできます』と言う方より、『技術はまだまだですが、一生懸命やります』と言ってくれる誠実な方のほうが信用できる」。


技術は後からでも教え合えるが、チームとして協力する姿勢は何よりも尊い、と考えているからだ。

さらに、支払いは迅速に行い、時にはパートナーの資金繰りを助けることさえあるという。このような徹底したパートナーシップが、『政工業の仕事なら』と腕利きの職人たちが集まる引力となり、結果としてチーム全体の力を最大限に高めていると言えるだろう。

「当たり前」を疑う視点が、独自の強みを生んだ

「なぜ、こういうやり方をするんだろう?自分ならこうする」

異業種である印刷営業からこの世界に飛び込んだ森口社長は、常に「当たり前」を疑い、試行錯誤を繰り返してきた。その姿勢が、リサイクルやリニューアルの時代が来ることを予見し、当時は珍しかった「内装解体」への特化という経営判断に繋がった。

最近では、協力会社探しに「助太刀」のようなITサービスも積極的に活用する。それは単なる効率化のためだけではない。人探しという煩雑な業務から自身を解放し、そこで生まれた「時間」という貴重な経営資源を、顧客や社員との対話といった「社長にしかできない仕事」に再投資するためである。


旧来の慣習に固執せず、常に「より良い方法」を模索し続ける。この柔軟な思考こそが、時代がどう変わろうとも利益を生み出し続ける、同社の強さの源泉なのかもしれない。

おわりに

政工業の取り組みは、一つひとつは特別なことではないのかもしれない。「利益を追求し、関わる人に還元する」「パートナーを大切にし、信頼関係を築く」「現状に満足せず、常に改善を続ける」。これらは、多くの経営者が目指す理想の姿とも言える。

しかし、同社の素晴らしさは、その理想を、社長自らが先頭に立って、誠実に、徹底的に実践している点にある。

理想を語るだけでなく、日々の現場で一つひとつを着実に実践し続ける――その積み重ねこそが、政工業の揺るぎない成長と信頼を生み出しているのだろう。