近年、金融機関は顧客企業の“真の経営課題”にどう寄り添うかが問われています。従来の強みであった資金ニーズ対応だけでは、顧客の期待に応えきれなくなってきました。
特に、少子高齢化・人口減少が進む日本では、多くの企業が「人手不足」という大きな経営課題を抱えています。「誰に相談すればよいかわからない」「自社には採用ノウハウがない」と悩む経営者も多く、金融機関の地域ネットワークや信頼を活かした支援に期待が集まっています。
金融庁が実施したアンケート調査等によれば、2021年2月末時点で、地域銀行等で有料職業紹介業の許可を取得しているものは96行中69行(72%)、今後許可を取得する予定があるものも含めると約9割となっており、地方金融機関が人材領域の支援に動き出していることがわかります。
ですが、建設業における有料職業紹介は禁止されており、支援の範囲が限定的になっているという現実もあります。
こうした状況を受け、神奈川県横浜市に本店を置く横浜信用金庫は、建設業に特化した採用支援サービスを展開する株式会社助太刀と業務提携を実施。建設業の取引先への新たな付加価値の提供を開始しました。
顧客の採用成功に並走しながら、新しい価値と確かな信頼関係を築いていった様子を、支援先であるコーワテック株式会社の事例でご紹介します。
【助太刀との業務提携による効果】
1.専門知識・ノウハウの活用
金融機関にない人材採用の専門知識やノウハウを、助太刀というパートナー企業を通じて顧客に提供できる。
2.事業そのものへの貢献
資金繰り支援だけでなく、顧客の根本的な経営課題である「人材不足」に直接アプローチし、事業成長を実現する。
3.信頼関係の深化
顧客課題に真摯に向き合う姿勢が評価され、単なる「金融機関の担当者」を超えた「事業パートナー」として信頼を獲得できる。
関係者紹介
【松永 直樹氏(横浜信用金庫 営業課長)】
横浜信用金庫の営業課長として、日々地元の中小企業を訪問。単なる融資提案にとどまらず、経営者との対話の中から、人材不足や販路開拓といった金融だけでは解決できない本質的な経営課題を汲み取ることに重きを置いている。
【髙橋 良和氏(コーワテック株式会社 代表取締役)】
神奈川県川崎市にてコーワテック社(社員数10名、電気工事会社)を経営。深刻な人手不足や過去の採用活動への不安を抱えるなか、松永氏の紹介で「助太刀社員」の利用を決断。
【鈴木 悠平(株式会社助太刀 採用コンサルタント)】
本業で多忙な経営者の「右腕」となり、二人三脚で採用成功を目指す。データ分析に基づく求人原稿の改善提案や、応募者対応のアドバイスを通して、クライアントが本来の事業に集中しながら、理想の人材と出会えるよう力強く支援する。
財務は健全な一方、人手不足が成長の壁
「当時、当金庫はコーワテック様とまだ取引がありませんでしたが、一社でも多くの地元企業を支援したいという思いから、積極的に課題のヒアリングを行っていました。」と、松永氏は振り返ります。
そのなかで松永氏が見えてきたのは、事業が好調な一方で、深刻な人手不足が成長のボトルネックとなっているというコーワテック社の現状でした。
「お話を通じて、すでにしっかりとしたビジネス基盤が築かれており、資金面でも安定されていることがよく伝わってきました。一方で、髙橋社長が度々口にされていたのは、建設現場を担う人材の不足という課題でした。『この課題さえ解決できれば、この会社はもっと成長できる』と確信し、助太刀さんをご紹介しました」と打ち明けます。
「建設業界のお客様から人手不足の相談を受けることは非常に多いです。しかし、私たちにできることは限られていました。そんなとき、建設業の採用について専門的なノウハウを持つ助太刀さんとの提携が開始し、今までできなかった課題解決策の提案ができるのではと感じました」と語ります。
一般的に、採用支援サービスの多くは、企業の要望に沿って求人広告を掲載する形が主流です。しかし、ただ求人を出すだけでは、なかなか応募が集まらず、どこに課題があるのか究明するサポートも受けられない場合が多々あります。
「掲載だけ」の支援では解決しない
髙橋氏も過去にこうした採用支援サービスを利用した経験がありましたが、思うような結果が得られませんでした。その大きな理由のひとつに、「自分自身が採用の専門家ではなく、どうやって魅力的な求人を作ればいいのか、どんな対応をすれば良いのか分からなかった」という点がありました。
さらに、社長業や現場での作業が多忙な中、限られた時間をやりくりしながら、採用活動のあらゆる工程を一人で担わざるを得なかったため、肉体的にも精神的にも負担を感じていました。
また、過去に利用した媒体から具体的なアドバイスや専門的なフォローもほとんど受けられなかったため、「採用活動は大変な割に成果が見えにくいもの」「自分には荷が重い仕事」というネガティブな印象が強く残ってしまったのです。
「ここまでやるのか」期待を超える“伴走型”サポート
「当社では、求人広告の原稿作成だけではなく、データ分析にもとづく採用コンサルティングを行っております。今回は、事前に松永様から髙橋社長のお人柄や事業の課題感を詳しく共有いただいていました。そのため、我々は初めから的を絞った深いご提案を準備でき、スムーズに支援をスタートすることができました」と鈴木は語ります。
また、今回の支援で特に意識した点については、
「髙橋社長がお忙しいことも重々承知していましたから、採用活動の負担をできる限り減らすことを念頭に置いてサポートしました」と続けます。
それに対して、「採用活動のバックアップ体制にものすごく驚きました」と髙橋氏。
髙橋氏は、求人原稿作成のプロセスについてこう語ります。
「助太刀の専任ライターが、まず丁寧に約1時間ほど私にインタビューしてくれました。その中で、自社のこれまでの取り組みや強み、また職場の雰囲気など、普段あまり意識していなかったことまで色々と引き出してもらえました。」
「このヒアリングをもとに、プロの視点で言葉を選び、自分では気づかなかった会社の魅力を言葉にしてまとめてくれました。」
出来上がった求人原稿を読んだ時の感想についても、「正直、驚きました。自分自身が自社の良さに気づいていなかったことにも気づかされましたし、当たり前と思っていた自社の取り組みも、きちんとした表現で伝えるとこんなに人に響くものなのかと感動しました」と、振り返ります。
また、鈴木のサポートについて、髙橋氏はこう語ります。
「応募があったときにはすぐに連絡をもらえたり、求人の閲覧数を見ながらそれが順調なのかどうかを分析してくれたりしました。必要に応じて、『ここをこう直しましょう』と原稿の修正も提案してもらえたので、本当に助かりました。採用活動のノウハウがなかった私たちにとって、専門的な視点で細かくアドバイスをもらえるのは、とても心強かったです。」
【助太刀のサポート体制】
・魅力の言語化
専任ライターによる丁寧なヒアリングで、経営者も気づかない自社ならではの魅力を引き出して求人原稿に反映。
・採用担当者の時間に合わせた密な連携
髙橋氏の都合に配慮し、週1〜2回の夕方以降に状況報告し、進捗だけでなく応募状況や「気になる」などの反応に応じた求人原稿の具体的な改善策を提案。
・採用ノウハウ提供
応募が来たら即時連絡することや、応募から採用までをスムーズに行うポイントなど採用活動に必要なノウハウを徹底してアドバイス。
当初「自分で全部やらなきゃいけないのでは」と思っていた髙橋氏も、「まるで自社に採用チームができたようで、一人で悩まなくて済んだ。本当に楽でしたし、楽しいとさえ思いました。」と語ります。
顧客の採用成功が、金融機関にとって“信頼”という資産になる
助太刀の支援もあり、コーワテック社はわずか3か月で3名の採用に成功しました。
新しく加わったメンバーの活躍で、髙橋氏が日々現場に出る必要がなくなり、営業活動など事業の拡大に向けた取り組みに注力できるようになりました。
この変化について、髙橋氏は「松永さんが紹介してくれたおかげです」と、その思いを率直に伝えてくれました。
対して、松永氏は「この言葉こそ、金融機関にとって最大の賛辞です」と語ります。
「お客様の事業が成長し、お客様が笑顔になる。そのお手伝いができたことが何より嬉しいですね。助太刀のようなパートナー企業と連携すれば、私たちは資金繰り支援以上の価値をお客様に提供できる。こうした成功体験は、他の人手不足で悩むお客様にも、自信をもって提案できます」
この事例は一時的な成果ではなく、金融機関にとっては顧客との信頼関係を深め、長期的な取引や新たなビジネスチャンスの創出につながる大きな価値となります。
顧客の本質的な経営課題に深く踏み込み、課題解決策を提供できるパートナーと連携して解決に導く。この経験の積み重ねが顧客からの揺るぎない信頼となり、金融機関の持続的な成長を支える新たな資産となっていきます。
さらに、金融機関とパートナーの連携は、助太刀のようなサービス提供企業にとっても新たな市場や顧客層との出会い、サービス改善の機会を生み出すなど、互いの成長に寄与します。
顧客、金融機関、そしてパートナー企業
―― 三者すべてがメリットを享受できる、まさに“三方よし”の新しいパートナーシップ。その先には、地域経済や産業全体の活性化と、一人ひとりの挑戦を支え合う未来が広がっています。