TOP インタビュー 『人は足りている』に慢心しない――案件数2.6倍を実現した会社のポリシー

『人は足りている』に慢心しない――案件数2.6倍を実現した会社のポリシー

2025年9月2日更新

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「以前の倍以上の案件を、今では当たり前のようにこなせるようになりました」

人手不足が叫ばれて久しい建設業界。多くの企業が職人の確保に苦戦する中、原状回復・リフォーム事業を手掛ける株式会社ザップの佐々木氏は、あっさりとそう語る。

同社は、独自のやり方で協力会社のネットワークを劇的に拡大させてきた。それに伴い、事業規模も急成長を遂げている。 

しかし、その強さの源泉は、単なる人集めのテクニックではない。集まった協力会社や職人さんを尊重し、常に新しい出会いを求め続けるという確固たる流儀が、結果的に腕利きの職人を惹きつけている。 

本稿では、同社の取り組みを通じて、これからの建設業界で「選ばれる会社」になるためのヒントを探っていく。

取材企業

会社名: 株式会社ザップ
事業内容: 原状回復工事、リフォーム・リノベーション工事
本社所在地: 東京都品川区
2025年「助太刀百名社 助太刀部門」ノミネート企業。

https://suke-dachi.jp/hyakumeisha/

佐々木 幸和 氏

株式会社ザップのリフォーム・内装工事部門 責任者。
リフォーム営業やWebマーケティング会社を経てザップ社に転職。豊富な現場知識と誠実な人柄で、多くの職人から厚い信頼を得ている。

ザップ社の流儀①:『品質』へのこだわりが、信頼とリピートを生む

「リフォームが終わっても、結局最後に拭くのはクリーニング屋さん。その質が悪ければ、すべてが台無しになるんです」

ザップ社の強さを支える第一の流儀は、「品質」への徹底したこだわりに集約される。特に、すべての作業の最終工程であるクリーニングの仕上がりには、並々ならぬ情熱を注ぐ。 

多くの現場では協力会社に一任されがちな作業後の確認を、同社では必ず自社の社員が自らの目で行う。そして、自社で設けた厳しい品質基準に達しているかを厳しくチェックする。

もし基準に満たない点があれば、手直しを指示するだけでなく、それで終わりにはしない。「どこが、なぜ悪かったのか」「どうすればもっと良くなるのか」「この汚れには、どんな薬品が有効か」といった具体的な改善策まで、丁寧にフィードバックを行うという。 

この取り組みこそが、ザップ社の生命線である。協力会社ごとの経験や技術力の差を、この自社チェックによって平準化し、常に高いレベルの仕上がりを顧客に提供する。

その積み重ねが、「ザップの仕事はきれいだ」と不動産管理会社から揺るぎない信頼を得ることにつながり、安定したリピート受注という強固な事業基盤を築き上げている。

品質へのこだわりは、単なるコストではなく、未来の仕事を生み出すための最も確実な投資である。そのことを、同社の姿勢は雄弁に物語っている。

ザップ社の流儀②:『人』との向き合い方が、最高のチームを作る


二つ目の流儀は、「人」との向き合い方にある。それは、多くの経営者が経験する“痛み”から始まった。

「以前、自社で職人さんを雇用していた時期もありました。手塩にかけて技術を教えても、これからという時に辞めてしまう。これは、うちだけでなく多くのリフォーム会社が経験していることだと思います」

この経験から、同社は「自社での直接雇用」だけに固執するのをやめた。その代わりに、より多くのプロフェッショナルである「協力会社」と、いかにして強固な関係を築くか、という道を選んだ。 その根幹にあるのが、「現場が一番」という思想だ。

「こちらからお願いするのに、『面談に来てください』では、上から目線に感じてしまう人も多い。だから、私が職人さんの現場近くまで行ってお話しします。その方が熱意も伝わるので」

新しい協力会社と仕事をする際は、必ず現場に顔を出し、直接挨拶を交わす。決して「仕事を与えてやっている」というスタンスは取らない。共に現場を作り、顧客に価値を届ける対等な存在として、最大限の敬意を払う。この姿勢が、職人たちの心を掴む。

「現場が一番ですから。仕事を取ってきて、それをやってもらう人がいてこそなので」

この言葉通りの関係構築を日々実践することで、やがて「ザップさんの仕事なら」と腕利きの職人たちが自ら手を挙げてくれるようになり、理想的なチームが形成されていった。

人が集まる会社とは、人が大切にされる会社のことである。その本質を、同社は深く理解している。

ザップ社の流儀③:『変化』を恐れない姿勢が、未来の成長を拓く

三つ目の流儀は、盤石な基盤を築いているにもかかわらず、決して現状に満足せず「変化」を恐れない姿勢である。 現場でのアナログな関係構築を徹底する一方で、同社はWebやITの活用にも極めて積極的である。「建設業はITに疎い」という旧来のイメージは、この会社には当てはまらない。

「当社はフランチャイズ組織に加盟していて、そこでYouTube動画を作成してもらったり、施工事例をアップしたりしています。」

自社の魅力を発信するために、YouTubeという現代的なツールを臆せず活用する。さらに興味深いのは、それをフランチャイズのサービスを利用して効率的に行っている点だ。

すべてを自前でやろうとせず、外部の専門的なサービスをうまく取り入れる。この柔軟な思考が、多忙な業務の中でも効果的な情報発信を可能にしている。 

そして、この「変化を恐れない姿勢」は、同社の根底に流れる「職人探しは、終わりなきテーマだ」という考え方につながっている。会社の成長は、人の成長と直結している。常に新しい風を入れ、チームを活性化させ続けることが、顧客満足度をさらに高める最善の方法だと知っている。

そのため、今いる人員で満足することなく、常に新しい出会いの可能性を探し続けているのだ。

おわりに

株式会社ザップの成長の秘訣は、「品質」「人」「変化」という、事業の根幹から決して目を離さない3つの流儀にあるのかもしれない。

かつての“痛み”を教訓に、協力会社との共存共栄という道を選び、現場での誠実な関係構築と徹底した品質管理によって信頼を得ている。

そして、その基盤を固めつつも、常に新しい手法を模索し、未来への投資を怠らない。

その誠実な取り組みこそが、結果として会社の対応力を高め、多くの職人を惹きつけている。変化の激しい時代において、最終的に信頼されるのは、こうした取り組みを誰よりも深く、愚直に追求し続ける企業なのだろう。