溶接スカラップ(scallap)とは、鉄骨材を溶接する際に、溶接交差部分に設ける扇形の穴のことを言います。穴が大きくなるほど強度が弱くなり、補強として溶接が必要です。従来型スカラップ工法とも呼ばれ、強度を上げるためには反転スカラップ工法か肉盛溶接工法にする必要があります。

溶接スカラップの問題性

従来のウェブにはスカラップが使用されていて、梁や柱にぜい性破壊を起こらせないために取り付けたものです。しかし、応力の集中によって亀裂や損傷を発生するケースがあり、時間とともに構造部全体に悪影響を及ぼします。
たとえば、壁に開口(ドアや窓)を設けると、開口があることによって開口隅部にヒビが入りやすくなります。開口には力の伝達が伝わらず、開口部周りに応力が伝わってしまうからです。それを防ぐために補強筋を用いています。
それと同じく、ウェブにも断面欠損を防ぐ必要があるため、溶接を設けています。

※フランジとは挟む板のことで、H型鋼やI型鋼の場合は上と下の横板のことを指します。H型鋼は「エ」の形をしていて、曲げモーメントを負荷してくれる役割を持っています。

※ウェブとは挟まれる板のことで、上フランジと下フランジの間にある縦板のことを指します。せん断力を負荷してくれる役割を持っています。

※柱スキンプレートとは角型鋼管(4面ボックス型)でできた柱のことで、SM材かSN材のみ使用可能です。

※断面欠損は断面積に穴があいた状態のこと。梁のスリーブ(貫通孔)やボルト接合部分などを指します。

溶接スカラップの手順

梁の部材にH型鋼を使用する場合、梁のフランジとウェブを柱スキンプレートやダイヤフラムに溶接します。
その際に、H型鋼のウェブ部分にスカラップを設け、裏当て金を取り付けて、完全溶込溶接(かんぜんとけこみようせつ)を行います。
ウェブは柱表面に隅肉溶接(すみにくようせつ)を行います。隅肉溶接は垂直(T字)になっている部分に設けて、開先(継ぎ目にできた穴)やスカラップには設けません。
これにより、強度のある柱梁溶接接合部ができあがります。梁に曲げの応力(おうりょく)がかかる際に、湾曲によって伸びる、縮む部分が上下のフランジ部分となります。
つまり、最も引っ張り力、圧縮力が掛かる部分がフランジ部分となります。そのフランジ部分の応力を柱やダイヤフラムに伝えるために、フランジ全体を溶接する完全溶け込み溶接とする必要があります。

※裏当て金とは、完全溶け込み溶接を行うときに溶接個所の裏面に取り付けられる細長い鋼板です。裏当て金があることで6mmまで溶接できます。
また、裏面は裏当て金で覆われているため、表面の溶接だけで済むので、作業効率や経済性にもよいです。

強度が期待できる工法とは?

ノンスカラップ工法

ノンスカラップとは、その名の通りウェブにスカラップが使用されていないことです。
断面欠損がなくなり、応力集中が起こりにくいのが特徴です。溶接技術の進歩により、ノンスカラップ工法も採用されるようになりました。

反転スカラップ工法

また、外部の鉄骨には防触のため溶融亜鉛案メッキを施す際に、亜鉛や空気の流出用に35㎜以上の円形孔を設ける方法もあります。これを反転スカラップと言います。スカラップのある鉄骨の場合、工事監理者の承認を受けることで、円形孔をスカラップに代替えすることもできます。

肉盛溶接工法

スカラップの形は同じだが、スカラップ底に肉盛溶接で補強することで耐震性が上がり、さらに裏当て金の代わりにパス溶接(1か所に何回も別けて溶接すること)でもっとグレートアップしている鉄骨もあります。

まとめ

ノンスカラップにすることで耐震性に優れていますが、現在でもスカラップを使用した鋼材も利用されている方もいらっしゃいます。それは「スカラップを設けたほうが作業効率によい」からです。スカラップ付きにするなら、反転スカラップ工法か、肉盛溶接工法で強度を高める必要があります。